1回の経験は100回の座学を上回る

新人の頃、マナーで大失敗したことがあります。

あるお客様のところに営業で訪問していたときの話です。その後に私は別のお客様との約束がありましたが、商談が盛り上がりズルズルと時間を延長。次の約束に遅刻してしまいました。

富士ゼロックス 社長 栗原 博氏

私は遅刻がマナー違反であることは重々承知していましたが、事情を話せばきっとわかってもらえるだろうと都合よく考えていました。しかし、遅れてお客様の元へ駆け込むとこう言われました。

「遅刻する営業マンとは話したくない。ドアを閉めてお引き取りを!」

キツい叱責を受けて、遅刻は信頼関係を根底から揺るがすものだということが骨身に染みました。入社時に約半年間の研修で徹底的にマナーを叩き込まれたつもりでしたが、知っていることと、実践することは別。1回の経験は100回の座学を上回ります。

この失敗を経験してから、次に予定が詰まっているときは、商談をはじめる前に退出時刻を伝えるようにしました。話の途中で「実は次が」とは言いづらいですが、最初にお伝えしておけば気にしてくださるお客様は多いと思います。

時間が迫っていることを示すために腕時計をチラチラ見ることはお客様に失礼と思っています。私は腕時計を見なくて済むように、応接室に入ったらまず時計の位置を確認することを習慣づけていました。壁掛け時計や置き時計なら自然に目に入るので、お客様を不快にさせずに時刻を確認できます。これは現場だから身に付いた知恵です。こういう実践的なノウハウをわが社の研修でも教えてあげるといいのかもしれません(笑)。

手痛い失敗を通じてお客様から学びを得ただけでなく、上司に教わったことも少なくありません。なかでも、今でも大事にしているのは、「お客様を知り抜く」という心構えです。

人には好き嫌いがあります。仕事ですから、たとえ苦手な人が相手でも気持ちを押し殺して接するべきです。駆け出しの頃の私は、それがプロの心構えだと思ってお客様に接していました。