「人口を増やします」といえる時代ではない

一方、引っ越しを推奨され、不満を持つ市民も多い。市営住宅に約40年前から住む女性(80)は「部屋が雨漏りしても市は直してくれない。引っ越せってことだと思うが、慣れた所から出たくない」と嘆く。

かつて炭鉱で働いていた浅野昭雄さん(74)も古い市営住宅に住む。「炭鉱夫は仕事後に銭湯で互いに背中を流し合うなど仲間意識が強い。ここを去るのは寂しい」と漏らす。

市が住民に引っ越しを促している市営住宅。

鈴木市長は「コンパクトシティへの過渡期はつらい。でも悪ではない。住宅は新しくなるし、生活の質の向上につながる」と説明する。さらにこう付け加える。

「10年もたてば、ほかでも(コンパクトシティ化を)どんどんやる時代になってくる。夕張が10年の間で財政を健全化し持続可能な都市構造にもなれたら、われわれはほかの過疎地域よりも一歩前に出られる」

「人口を増やし、企業を誘致するのが市長の仕事だろうと言う人がいるが、そういう時代ではない。たしかに『市長になったら人口を増やします』と言えば当選はしやすいだろう。でも人口は減る。そのときに備え、どう行政サービスを安定的に提供し、どう生活の質と利便性を確保して、どう幸福度を高めていくのか。これを放棄することは市長として無責任だ」

鈴木市長は国は高齢者に対して手厚い政策を組んでいると指摘する。「夕張では申し訳ないが、高齢者には我慢していただいて若い世代に集中的に投資したい」。夕張市は65歳以上が50%を超えているが、それでも町の存続を願う年配者から「先(未来)にもっと投資してほしい」と応援されるという。鈴木市長は「どん底を味わった夕張は必ず再生する」と力を込める。

(撮影=鈴木聖也)
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