長寿を家庭から地域に広げる健康ボランティア
北アルプスの麓にある長野県松川村は、松本市から国道147号線を北上して約40分。道路の左手には、稲が青々と育った田んぼが並ぶ。その先には北アルプスの山々をのぞむ安曇野の原風景の広がる、全国でも珍しい野生のスズムシが生息する田園の村だ。
松川村が脚光を浴びたのは2013年。厚生労働省が発表した市区町村別平均寿命で、男性の平均寿命が82.2歳で1位になったからだ。女性は87.8歳で41位。村役場の正面の外壁には、〈男性長寿日本一の村~みなさんの健康が、村の誇りです。〉と大書きした垂れ幕が下がる。
「全国ニュースで『松川村……』って流れたので、事件が起きたのかと思ったら、男性長寿日本一というから驚いた」と、東松川区長の平林吉夫さんは当時を振り返る。「農業や家庭菜園に携わる高齢者が多く、やりがいのある仕事を持ってる人が多い」ことが長寿に影響しているのではないかと話す。
長野県は都道府県別平均寿命で男女とも日本一。県は長寿の要因として、(1)高い野菜の摂取量、(2)低い肥満者の割合、(3)高い高齢者就業率、(4)盛んな公民館運動、を挙げている。が、さらに「健康な生活を送るための保健指導に力を入れてきたことも要因のひとつです」と話すのは松川村福祉課健康推進係の村山真一係長だ。
「健康長寿の活動を健康ボランティアの保健補導員や食生活改善推進員が住民との橋渡し役として支えてくれているのが大きい。保健補導員は約100人で、健康について学んだ住民が家庭から地域へと広めます。さらに自分が暮らす地区の一軒一軒を訪ね、健康診断の申込書を配り、回収します。また、年に数回、各地区の公民館などに保健師や栄養士を招き、生活習慣病や介護、健康体操などの研修会を開いています」
郵送ではなく、地区の人と顔を合わせて健診を勧める意義は大きいという。
食生活改善推進員も保健補導員同様のボランティアで、地域のつながりや健康づくりの大きな推進役を果たしている。松川村では現在、26人の「食改さん」が、地域での料理教室や啓蒙活動を行っている。かつて長野県の死因の1位は脳血管疾患で、1960年代には女性の平均寿命が全国平均を下回ることもあった。栄養調査では塩分摂取の高さが指摘されたため、県が料理講習などを通して減塩運動を推進したことも功を奏し、今では長寿日本一の座を占める。このとき「食改さん」や保健補導員が大きな力になったのだ。