自力で稼いでPRする発想がなかった

窮地に立たされ、行政サービスを一度まっさらにした夕張だが、そこから見えてきたこともあるという。「市からのお金があってやってきたものもある。本当に必要なものはそれがなくなってもみんなで必死に守ろうとする」。夕張市では破綻前に始まった年一度の映画祭が今も開催されているのだ。

インタビューにこたえる夕張市の鈴木直道市長。

「88~89年、竹下登内閣のとき、ふるさと創生1億円として自治体に1億円を配った。そのお金で夕張市は映画祭を開き、ハリウッドスターを呼んだ。しかし破綻して補助金が0になったので打ち切りになると思われたが、映画関係者の人たちが『なくしちゃならん』と立ち上がり、今では市民自ら6000万とか7000万円を毎年集めている」

補助金がなくなったことで民間が入り、むしろ強くなった例も。その一つが観光業だ。以前は行政主導で不採算の中やっていたが「東京へ職員が行って観光PRをしても全然マスコミに取り上げてもらえなかった。自力で稼いでPRする発想がなかった。それだったら宣伝で飯食っている人と連携したほうが当然いい結果が生まれる」。

破綻後、ガンが減って、老衰が増加

財政破綻時、市民の多くが心配したのは市の医療が崩壊するかどうかだった。病床数は171から19まで減らされ、市からは総合病院が消えた。医師の数も半分以下に減らされ、病院の建物を使い小さな診療所と介護施設ができた。混乱も予想されたが、ふたを開けてみると意外なことが起きた。

09~13年にかけ、夕張市立診療所に勤務した森田洋之医師は自著『破綻からの奇蹟 いま夕張市民から学ぶこと』で、日本人の死因の2位心疾患と3位肺炎の死亡率について、夕張では破綻前よりも後のほうが低くなったと指摘している。男性に限っては死因1位のガンも低下しているという。その分、老衰の死亡率が高まっているのだ。

森田医師によると、市の後期高齢者数は増えていることから、年配の方が市外に移り住んでいるというわけではない。市の高齢者一人あたりの医療費も下がっているほか、救急車出動回数も破綻前を下回っている。