賄賂もへっちゃらが強さの重要な要素

――民主化した国家にもかかわらず、フン・セン氏が30年以上にわたり権力を握り続けるカンボジアの政治腐敗はかなり深刻だと聞きます。これは中国企業だけではなく韓国企業にも共通する話ですが、腐敗への耐性の強さも、彼らの強みになっている部分ではありませんか。

【K】そうですね。私の弟は韓国系の建設会社で働いていますが、なかなか凄まじいですよ。許認可関係でトラブルがあったら、会社で高級車を買って、担当の大臣にプレゼントしてあげる。その後のメンテナンス費用も全部会社側で持ってあげる。これで、あっという間に許認可関係の問題をクリアしていきます。入札ともなれば、裏金のほかに高級車を何台も買ってターゲットに送りつけます。もちろん中国企業も似たようなことはやりますね。

従来あった日本・カンボジア友好橋(右)と並行して、中国は近年になり中国・カンボジア友好橋(左)を建設。渋滞が多いトンレサップ川の橋が事実上の4車線化したことで、地元の評判は上々だ。
――日本企業は、そういうことはやらないわけですか?

【K】やりません。やるのは特に中国や韓国の会社です。あと、台湾や東南アジアの華僑系の会社もやることがある。そうなると、日本の会社はいっそう太刀打ちが難しいでしょう。 

たとえば政府関連機関の建設分野は腐敗の温床です。この前、中国政府からの援助(借款)で大きなビルが建ったわけですが、こういうときは仮に建設費が200万ドル(約2億1600万円)ならば、100万ドルは賄賂に消える。逆に言えば、ポケットマネーを儲けたい政府の人々にとっては、中国企業に建設を発注するのは実にありがたい話になるのです。あと、このあいだカンボジア政府は中国からヘリコプターを購入しましたが、支払いの3分の1はカンボジアの政府関係者のポケットに入りました。

――うーん。そういえば売上の10%に課されるVAT(付加価値税)についても、今回別の場所で取材した中国企業の社員は、「税務署の役人に月額400ドルの賄賂を渡しているから、うちは無税になっている」と言っていました。いっぽうで日系企業の社員は、本社にそのことを持ちかけたら即座に却下されたそうで……。

【K】賄賂はよくない。私自身も嫌悪感がある。しかし、中国・韓国企業はなんでもやりたい放題なんです。

【茂木】カンボジアのためにフォローさせてください。経済特別区(SEZ)など、腐敗が少なく国際的なビジネス環境に近い環境で進出できる場所もありますから、そうした場所なら日本企業は安心して進出できますよ。

プノンペン市西部郊外にあるプノンペンSEZ。日本企業が主導して開発中である。
――SEZは取材で行ってみましたが、駐在員向けのかなりレベルの高い日本料理店があったりと、日本人にとってはありがたい場所ですね。もっと日系企業に進出してほしいと私自身も感じました。ところで、カンボジアにおける中国企業での労働環境はどうですか?

【K】基本的には日本企業のほうがずっといいですよ。日本企業は現地の社員の健康にも労働時間にも配慮してくれるけれど、中国企業はより問題が多い。しかし、たとえストを起こされても、中国企業はすぐに警察にカネを渡して鎮圧させます。

――Kさんご自身はアメリカに留学歴がおありですし、カンボジアの賄賂社会や過度の対中接近には批判的なのですよね。最後に一言どうぞ。

【K】本来、カンボジア人の8割はフン・セン政権も中国も嫌いです。日本のビジネスにおけるクオリティは中国よりも高いので、カンボジアに来てほしいところですが……。

――ありがとうございました。