充実した子育てサービスを提供するためには、保育士の確保も必要です。このため南相馬市では「保育士宿舎借り上げ支援事業」を行っています。対象は2015年以降に採用された職員で、事業者が借り上げた宿舎の家賃を上限7万円まで補助するものです。

事業の目的は、就労者の確保とそれにともなう税収増加ですが、家賃補助を行うことで、実質的に保育士の可処分所得を増やすことができます。さらに「空き家」に人を呼び込むことができれば、空き家問題の解決にもなります。

当面は5年間の時限事業となっていますが、この制度が地域への「マグネット」となり、さらなる求人効果と人材の定着効果が出ることを期待しています。

放射線への「正しい知識」

原発事故のあと、南相馬市では「除染」を行いました。除染とは、放射線に汚染された地域の環境を回復するものです。除染後、市街地の公共施設などには現在の空間放射線量を示す「モニタリングポスト」を設置し、放射線の「見える化」を行いました。

放射線への「恐怖」は、暗闇のオバケにたとえることができます。「見える化」が行われていないと、「オバケがいるかもしれない」と思って、前に進むことができません。しかし「見える化」ができていれば、安心感をもって日々を過ごすことができます。そのためには「正しい知識」も重要です。南相馬市では、有志やNPOを通じて、放射線への正しい知識を身につけるための勉強会を何度も開いてきました。

「見える化」と「正しい知識」によって、それぞれが自らの判断で行動することが大切だと思います。

育児休暇の取得を推奨

こうした動きを受けて、企業も、人材の流出を防ぐために本腰を入れ始めています。育児と仕事の両立を目的として、労働時間の短縮に努めたり、育児休暇の積極的な取得を進めたりしている企業が、南相馬市でも増えつつあります。

一般的にこれまでは育児休暇を取りづらい雰囲気がありました。しかしそのままでは十分な人材が確保できなくなっています。育児へのサポートの充実は、離職防止に効果があることが伝わるようになってきました。そのため子育てのしやすい職場環境をもつ企業が増えています。いまでは多くの企業で、子供が熱を出した場合でも、躊躇せずに子供を迎えに行くことができる態勢があります。

震災後、子供連れの集える場所や遊び場が、充実してきています。これは「子供を産んでも相談できる人がいない」という悩みの解決になります。こうした保育環境の充実は、民間団体やNPOの支援のおかげです。

ベテラン保育士の活用がカギ

また、よつば保育園では「病後児保育」に取り組んでいます。これは風邪などで発熱した後、いわゆる「病み上がり」の時期、病後児のために別棟で専用保育を行うものです。残念ながら、「病中」にお預かりすることはできませんが、「病後」に対応することは、感染拡大を防ぐだけでなく、保護者の負担を減らし、安定勤務につながるものだと考えています。

南相馬市では、まだまだ保育のニーズがあります。一日でもはやく待機児童を解消しなければならないと思います。そのためには、保育士の確保と安定雇用が必要です。ひとつの解決策は、ベテランの保育士が安心して働きつづけられる環境整備です。よつば保育園は本人から退職の申し出がないかぎり、定年後も再雇用で働くことのできる環境を整えています。保育園によっては、ベテランの保育士が不足しているため、新卒の保育士が初年度から担任をもつことになり、負担の重さから早期離職してしまうケースが増えているそうです。バランスのとれた人員配置を行うことで、早期離職を防ぎ、人材の定着が図れます。