呼吸を整える「調息」
瞑想で大事なのは「調心」「調身」「調息」の3つといわれる。調は「整える」の意味。つまり心を整えるのは当然ながら、さらに姿勢、呼吸も整える必要があるのだ。
「特に瞑想でベースになるのが呼吸です。とにかく、ゆっくり、深く呼吸することを心がけてください」
臨済宗妙心寺派本山塔頭 春光院 副住職の川上全龍さんはそのように強調するが、悲しいことに、現代人はゆっくり呼吸することに慣れていない。なぜならパソコン、スマホを頻繁に使用し、前かがみになって背中が丸い状態でいることが多いから。この姿勢だと横隔膜をうまく使えず呼吸が浅くなり、深呼吸するのもしんどく感じてしまう。
そこでまずは「調身」、姿勢を整えてみよう。基本的には背筋を伸ばせば、深い呼吸ができるようになる。チェックポイントは、胸だ。クッと張ることで胸が開き、横隔膜が使えるようになる。そして、肩。猫背の人が背筋を伸ばそうとすると、こわばって肩が上がってしまうことがある。肩をすくめるようにして力を入れた後、一回力を抜いてみる。そうすると肩が落ちて、緊張がほぐれやすい。
座り方も気をつけたい。胡坐は膝の位置が高くなって、骨盤が後ろに倒れてしまうため、背中が曲がってしまう。その点、結跏か半跏で座ると膝が腰より低くなるため、骨盤が真っ直ぐに立ち、背筋も伸びる。
「結跏と半跏は自然と腰が伸びるので、慣れると楽です。でもうまく足が曲がらなくて辛ければ、胡坐でも椅子の上でも構いません。楽な姿勢であることが重要です。椅子なら、硬めの椅子のほうが楽でしょう」(川上さん)
続いては呼吸。「まずは息を、長く吐くことを意識してください」と川上さん。人間の体は、緊張すると自律神経の一つである交感神経が、リラックスすると同じく自律神経の副交感神経が優位になる。息を吸うときには交感神経が、吐くときには副交感神経が働くので、つまり、息を吸えば体は緊張し、吐けばリラックスするのだ。呼吸しながら自分の脈拍を測ってみると、吸うときはやや速くなり、吐くときはやや遅くなるのがわかるだろう。
また息を長めに吐くと、血中の二酸化炭素の濃度が高まることで、感情の昂ぶりを抑えたり、精神の安定をもたらす神経伝達物質・セロトニンの分泌が増える効果もある。
●5秒かけて息を吸う
まずは胸が開くような姿勢をとり、5秒かけてゆっくりと息を吸う。このとき、交感神経が優位になり、アドレナリンが分泌されることで、体が自然と緊張した状態になる。
●10秒かけてゆっくりと吐き出す
吸いこんだ息を、その2倍の時間をかけて吐き出す。息をはいているときには副交感神経が優位になり、リラックスして体を休める働きをする。10秒が難しい場合は吸った息の倍時間をかける気持ちで。
「私の場合、大体5秒吸って、10秒かそれ以上かけてゆっくり吐いていきます。もし辛く感じるようであれば、短くてもいいので、吐く息の長さが吸う息の2倍ぐらいになるようにしましょう。3秒かけて吸ったら、6秒かけて吐くのです。呼吸しながら心の中で数を数える「数息観(すそくかん)」という方法もありますが、私は考えず、感覚に集中してます。どちらでも結構なので、やりやすいほうでいいのです」(川上さん)
また呼吸するのに、鼻と口、どちらを使うべきか。これもどちらでもOK。そこに意識を向けるよりも、息を吸って胸や腹が膨らむ感覚、吐いていくときに縮んでいく感覚に集中するといい。
「呼吸は人間の感情にさまざまな影響を与えます。イライラしているとき、ゆっくりした呼吸をすれば気持ちが落ち着く。瞑想時だけではなく、日常生活でも姿勢や呼吸を意識しましょう。それこそが正しいマインドフルネスの取り入れ方です」(同)