ドナルド・トランプは開拓時代のカウボーイ

強気の発言とオバマ政権からの政策の転換で、注目を集める米国ドナルド・トランプ大統領。その動向を日本の産業界も注視する。INSEADビジネススクールで異文化交渉の教鞭をとるエリン・メイヤー氏に、トランプ大統領の交渉術と、アメリカ人に対して日本人が交渉を優位に進める方法について聞いた。
INSEADビジネススクール教授 エリン・メイヤー氏
――トランプ大統領のコミュニケーションをどのように分析するか。

トランプ氏の発言は透明性が高く、リスクを取ることを厭わず、はっきりとものを言う。そして、その場で思いついたことを言葉にする。開拓時代のカウボーイのような、典型的な米国人です。彼に票を投じた人は、昔ながらのアメリカ人魂を具現化したような姿に惹かれたのでしょう。

――そもそも日米のビジネス文化の違いはどこにありますか。

アメリカ人は物事を決めたいとき、YESかNOで答えられる質問をします。それに対して日本人は、どちらとも取れる答えを返してくることが多い。明言せず、ほのめかして伝えようとするのです。これには米国人は困惑します。「良いコミュニケーション」について数十カ国で調査してきましたが、日本は世界で最も「繊細で、含みがあり、多層的なものである」と考える文化を持ち、米国は世界で最も「厳密で、シンプルで、明確なものである」と考える文化を持つことがわかりました。

日米は世界の両極端の文化を持っていると言えます。米国では会議の場で異なる意見を述べるのは当然です。しかし、日本では意見が異なる場合には会議の前にすり合わせを行い、合意に至った案を会議で発表します。それは米国人にとっては、見たことのない不思議な光景に映る。そもそも、会議の場でこそ、さまざまな意見を出し合い、すり合わせることが目的だと考えているからです。

「沈黙」に対する感覚も大きく異なります。米国人は沈黙を「ネガティブなシグナル」と捉えます。相手が沈黙していれば、怒っているのか、不支持なのか、理解できていないと思い、さらに話そうとする。一方で日本人は沈黙を、発言に対して敬意を示したり、熟考している姿勢としてポジティブに受け止める。よって、沈黙が耐えられないアメリカ人が話し続け、発言するのを待つために沈黙している日本人は喋れずに、一方的な会話に終始してしまうことがよくあります。

――仕事の進め方に違いは?

意思決定のプロセスが異なります。アメリカでは意思決定はトップが行い、質よりもスピードを重視します。状況が変われば必要に応じて判断を変えればいいという考えです。一方で日本は、世界きっての「合意」を中心とした意思決定プロセスを持つ国。グループで時間をかけて決断を下し、一度決めたことは簡単には変えない。米国人は日本の意思決定の遅さに大きなフラストレーションを感じていると認識したほうがよいでしょう。

――交渉に臨むときのポイントはどこでしょう。

政治にせよ、ビジネスにせよ、アメリカ人と交渉するときに気をつけたいのは、ネガティブフィードバックの方法です。アメリカ人はネガティブなことを相手に伝えるとき、ポジティブなことも同時に伝える文化があります。日本人はアメリカ人にNOならNOとはっきり言うべきですが、その前に相手の良い点を2、3挙げて褒め、そのあとにNOを伝えるという手法が効果的です。どんな場面でもお互いのギャップを理解し、チャンスを掴もうとする姿勢が重要なのです。

INSEADビジネススクール教授 エリン・メイヤー
1971年、米国ミネソタ州生まれ。異文化理解に基づく組織行動学が専門。異文化交渉、多文化リーダーシップの教鞭をとる。次世代で最も有望な経営思想家を選ぶThinkers50に選出。著書に『異文化理解力』(英治出版)。
(嶺 竜一=構成 市来朋久=撮影)
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