トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、スピッツ……
セラピー犬は一部を除き、各セラピストの愛犬だそうです。自宅でともに生活し、朝は病院まで一緒に通勤。日中はドッグセラピーを行ない、それが終わると一緒に帰宅するという生活をしています。
ドッグセラピーを行なっている施設や病院はありますが、その多くはセラピー犬を飼っているセラピストがボランティアで週に一度、あるいは月に一度といったサイクルで実施する形をとっています。同病院のように専従のセラピストを雇用し、毎日ドッグセラピーを行なっているところは珍しいそうです。
なお、ドッグセラピストは国家資格ではありませんが、専門知識を必要とするため、アニマルセラピー養成科がある専門学校で学んだ人がなるケースが多いとのこと。
同病院でセラピー犬として活躍しているのは、トイ・プードル、ミニチュア・シュナウザー、日本スピッツなど。ラブラドール・レトリバー、スタンダード・プードルなどの大型犬も3頭いますが、他はすべて可愛らしい小型犬です。
ただ、小林さんによれば、セラピー犬に適した犬種はとくにないそうです。セラピー犬として活躍する条件は犬種よりも、その犬が持つ性格が重要。人間が好きで人見知りしない、気性が穏やかで他の犬とケンカをしない、といった性格を持っていればセラピー犬にすることが可能だそうです。
そうした犬に「待て」「おすわり」といった基本的なしつけを教え、車椅子などの医療・介護器具に慣れさせる。加えて重要なのが健康管理。高齢者は免疫力が弱っていることから、感染症の予防注射や定期健診を行なったうえ、体の清潔を保つことが必要になります。そうしたハードルはありますが、同病院のようにセラピスト自身がセラピー犬を、愛情を持って飼うという形ならクリアできるというわけです。
「それでも100人にお1人ぐらいは“犬は嫌、怖い”といった方がいらっしゃいます。そのため患者さんやご家族には入院時、アンケートに答えていただいています。犬は好きか嫌いか、飼ったことはあるか、動物のアレルギーはあるかといった内容です」
前出の小林さんによれば、“犬は苦手”と答えた人も時間をかけることで好きになる可能性はあるといいます。
「アンケートの情報をセラピスト全員が共有して、最初はその方の半径5m以内には犬を近寄らせないようにします。その方も他の患者さんが犬を抱っこしたりしているのを遠くから見ていらっしゃるわけです。ワンちゃんもセラピーの時はおとなしくしていますし、噛むこともない。日々、そうした光景を見ているうちに犬に対する抵抗感が薄れていくのです」
セラピストはそんな患者の様子を見ながら、犬が近づく半径を少しずつ狭めていく。
そのようにして1カ月、あるいはそれ以上かかる人もいますが、多くの方が足元に近づいても平気になるそうです。
「そして、もうこの方は大丈夫と判断できると、セラピストが抱いて行って、“撫でてみませんか?”とお声がけします。最初は、恐る恐る。でも、犬はおとなしくしていますし、その手触りや感じる体温が心地よい。新たな発見をしたという感じで、笑顔になられます」
同病院では、このような細やかな配慮のもと、ドッグセラピーが行われています。
次回は実際に見学したドッグセラピーの様子や、どのような効果があるかといったことをレポートします。