【弘兼】開発というのは、具体的にどういう仕事ですか?
【辻】いくらぐらいの事業にするのか、容積をどれぐらいとるのか、どのような用途で使うのか。また、地権者と交渉したり、どこの設計事務所に依頼したりするかといったすべての骨格を組む仕事です。まずは開発部隊が主導して、設計部隊などと一緒に計画を進め、営業部隊、管理部隊が加わっていきます。
【弘兼】ということは、地権者の説得もやられたのでしょうか? アークヒルズの開発では「再開発反対!」「インベーダー森ビルは出ていけ」といった手書きのビラが貼られていたとか。相当な反発があったとも聞きました。六本木ヒルズの再開発はどのようなものだったのでしょうか。
【辻】六本木ヒルズの再開発の際には、アークヒルズという先例があったとはいえ400人の地権者がいましたので、「400人の合意形成なんてできるはずがない、この再開発は絶対に無理だ」と言われました。
【弘兼】やはり先祖代々の土地に強い愛着を持っている人もいるでしょう。
【辻】この土地は命の次に大事なものだと言われたこともありますよ。ただ、(東京ミッドタウンとなった六本木の)防衛庁の跡地などのケースを除けば、東京の中心地で大規模な開発をしようとすれば、地権者と向き合って理解してもらうしかない。
【弘兼】交渉のとき、どんなことを心がけていたんですか?
【辻】まずは相手に信用してもらうことです。森ビルという会社の信用よりも、交渉に行っている人間の信用が先にないと話もしてもらえません。若い社員であっても会社を代表して行っているわけです。その人間が街づくりをしたい、完成させたいという気持ちがないと絶対にできません。
【弘兼】反対する方から、厳しい言葉をかけられれば、落ち込みますよね。
【辻】ええ。たとえば、マンションの一室を販売するとします。弘兼先生に営業へ行って「いらない」と言われたら、「あっ、わかりました」と次の人に行ける。しかし、権利者の場合は、その人を外して次に行けない。