OCR+人力入力で、ビジネスに使える精度に高める

【寺田】名刺管理のソフトウエア自体は昔からありました。私たちが創業した時点でも、秋葉原にいけば5~10種類はあったんじゃないかな。ただ、データベース化するときの精度に問題があって、使いづらかったんですよ。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】どういうこと?

【寺田】名刺をデータ化するときには、OCRという文字を読み下す技術を使います。OCR技術は発展し続けていますが、それでも100%じゃない。たとえばアルファベットの「I」をLの小文字「l」と誤って認識してしまうこともあります。1文字でも間違うと、メールを送っても届かない。これじゃ仕事に使えないのです。

【田原】寺田さんのところは、OCRでやらないんですか。

【寺田】私たちはOCR技術を使ういっぽうで、人が手打ちします。人の手が入るので、OCRで生じてしまう間違いを埋めることができる。そこが従来の名刺管理ソフトと大きく違うところです。

【田原】でもSansanの成功を見てマネするところも出てきますよね。

【寺田】私たちが創業して以降、同じように企業向けの名刺管理サービスを提供する会社が20~30社は出てきました。ただ、おそらく世界でもっとも名刺管理のノウハウを有しているのは当社。率直にいって、競合の存在は課題になっていません。

「名刺+AI」の可能性

【田原】いま売り上げはどれくらいですか。

【寺田】売上は公開していませんが、ユーザーでいうと4000社ほど。お客様は社員数1~2人の中小から、日本を代表する大企業までさまざまです。料金も月1万円のシンプルなものから、セキュリティを細かく設定できるものまで、さまざまなグレードを用意しています。

【田原】名刺を検索できるだけじゃなくて、グレードによっていろいろな機能があるわけね。

【寺田】いま名刺のデータベースから自社を分析する機能も実験中です。たとえば、うちの会社はどこの業界に強くて、逆にどこの業界に弱いということがわかったり、次に誰に会うべきかを提案してくれたり。

【田原】誰に会うか教えてくれるのはおもしろい。そんなことできるの?

【寺田】名刺はビジネスの結果であると同時にプロセスでもあります。だから、名刺の流れを分析していくと、「次はこの部署の誰にコンタクトを取ったほうがいい」といったことも見えてくる。それをAIが分析して提案するような機能をいま少しずつ試しています。

『起業家のように考える。』(プレジデント社)

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