個人向けサービス「Eight」が参考にしているのは「LinkedIn」
【田原】御社は企業向けのほかに、「Eight」という個人向けのサービスを12年からやっていますね。個人向けというのはどういうことですか。
【寺田】ビジネスに使うSNS、わかりやすくいうとフェイスブックのビジネスバージョンをつくりたかったんです。名刺管理は、ほぼすべてのビジネスパーソンの課題です。ただ、企業向けサービスの利用が10万社まで増えたとしても、日本中のビシネスパーソンが使う状況にはなりません。みなさんに使ってもらうには、個人に直接提供するサービスも必要だと考えました。こちらは無料で、登録は約100万人です。
【田原】無料だと、どうやって採算を取るのですか。広告?
【寺田】現時点ではまだ収益化していません。まず多くの人に名刺をデータで管理する価値を届けることが大事だと考えています。収益化で参考にしたいのは、マイクロソフトが買収したリンクトイン(LinkedIn)です。リンクトインはビジネスに特化したSNSで、転職マーケットで収益化を図りました。転職マーケットはお金が動く額が大きい。エージェントが1人決めると、100万単位でお金を取りますから。私たちも、そこで収益化できないか構想しています。
【田原】もう少し具体的に言うと?
【寺田】名刺は、ビジネスパーソンの履歴書にもなります。Eightは最初にサービスを使うときに自分自身の名刺を登録します。さらに自分の過去の名刺を登録していけば、その人がどのような仕事をしてきたのかもわかります。たとえば私の持っている名刺を見れば、最初は東京でIT関連の人たちと仕事をして、その後アメリカに行って、また日本に戻ってきて、ということが丸見えになるわけです。これを活かせば人と人の新しいつながり方を提供するサービスを展開できるんじゃないかと。
【田原】なるほど。Eightの収益化はいつごろのつもりですか。
【寺田】ここ1、2年のうちには収益化していきたいです。ビジネスパーソンが使うソーシャルサービスとしては日本で一番大きくなりつつありますから、そろそろいいタイミングかなと思います。
徳島県の神山町にサテライトオフィスを作って生産性は上がった? 下がった?
【田原】先ほど、シリコンバレーの会社は理念や世界観が先行しているとおっしゃった。会社が小さいうちは、寺田さんが目指す世界観を社員みんなで共有しやすいでしょう。でも、一般的には会社が大きくなってくると、そこが難しくなっていく。そこはどうやって工夫していますか。
【寺田】私たちが掲げているミッションは、「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」。いまの表現になる前に何度か言葉を変えていますが、本質的なところは創業以来変わっていません。もちろんミッションがあっても、みんなよく覚えていないという状態では意味がない。ですから、非常に古めかしいですが、毎週月曜日の朝に開いている朝会でミッションを斉唱しています。ベンチャーですけど、昭和風です(笑)。
【田原】朝礼ですか。そこはたしかに昭和っぽいですが、寺田さんの会社はITを活用して徳島県・神山町にサテライトオフィスを構えていますね。これはむしろ先進的な取り組みだと思いましたが。
【寺田】よく誤解されるのですが、神山町にオフィスを構えているのはワークライフバランスとか地方創生といった文脈ではありません。単純に、より生産的、創造的に仕事をするなら、自然豊かなところもいいかなと考えたからです。オフィスで人が集まって一体感を持って働くことは重要でしょう。しかし、毎朝満員電車に揺られて出社して、PCの前に座り続けて働くことが、本当に生産性の高い行為なのか。そうした疑問を持っていたところに神山町との出合いがありまして、実験的にやってみたというところです。
【田原】実際、生産性のほうはどうでしたか。
【寺田】生産性が上がる人もいれば、逆に下がる人もいました。下がるのは営業かな。リモートでオンライン営業ができるので仕事するうえで直接の支障はないのですが、自然に長く囲まれていると、戦う気持ちが薄れていくようです。ただ、上がる人と下がる人をならしていくと、総じてプラスになっていますよ。
『起業家のように考える。』(プレジデント社)
いま話題のサービスを立ち上げた起業家たちは、何もないところからどのようにキャリアを形成し、今に至ったのか? 18人の起業家にジャーナリスト田原総一朗が鋭く切り込む。
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著者 田原 総一朗
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