誰もが乗りたくなる、カッコイイ電動車いすをつくる――シリコンバレーに本社を置くベンチャー・WHILLが目指す未来とは?

シリコンバレーに本社を置き、電動車いすを作るベンチャー企業「WHILL」。WHILLがつくる車いすは、むしろ1人用のクルマ「パーソナルモビリティ」と呼んだほうがふさわしい乗り物だ。社長は元日産自動車のデザイナー。社員はソニー、オリンパスなどから転職してくるという。

CEOの杉江理氏は、立命館大学卒業。大学時代はボクシングに打ち込んでいたが、卒業後に日産自動車に入社、外装デザインを担当するようになる。退職後に中国へ渡り、世界を放浪したあとに始めたのが電動車いす作りだったという。杉江理氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。

誰もが乗りたくなる車いす

【田原】杉江さんは話題の車いすをつくったそうですね。従来の車いすとどう違うのですか。

【杉江】まず見た目が違います。今までのものはパイプでつくられていて、必要最低限の機能がついた、いかにも車いすという乗り物でした。それに対して、僕らは車いすという概念を超えたスタイリッシュなものをつくりたかった。それがパーソナルモビリティの「WHILL」です。

【田原】見た目は大事ですか。

【杉江】もちろんです。ある車いすユーザーの方から、100m先のコンビニに行くこともあきらめるという話を聞きました。だったら、誰でも乗りたくなるデザインにすればいい。

【田原】違うのは、デザインだけ?

【杉江】新しいテクノロジーを使っています。WHILLの前輪は、24個の小さなタイヤから成り立っています。この構造だと小さな回転半径が実現できて、その場で回ることもできます。かつ4WDになっているので、走破性があります。7cm程度の段差なら軽く乗り越えられるくらいパワフルで、雪道や砂利道も進めます。

【田原】これは電動ですね。普通の車いすだと100m先も行けないという話だけど、この車いすならどこまで行けますか。

【杉江】乗る人の使い方によって異なりますが、20~25kmは。

【田原】スピードは?

【杉江】法律で決まっているので、日本では6km/h。アメリカでは約9km/h出ます。

【田原】アメリカで販売しているんですか。売れ行きはどうですか。

【杉江】アメリカは今年2月末にようやくFDA(食品医薬品局)の認可が下りたところで、これから本腰を入れていきます。日本で電動車いすは福祉機器なのですが、アメリカでは医療機器のカテゴリーに分類されます。医療機器はFDAの認可がないと販売できないので。

【田原】FDAの認可を取るのは難しいのですか。

【杉江】坂道できちんと止まれるとか、転ばないとか、耐久性能があるなど、規格内に収めるための試験がいくつもあります。あとはドキュメンテーション。安全基準を満たしていることを資料でも1つずつクリアにしなければいけません。それはいいのですが、FDAは政府系の機関なので、提出した後もなにかと時間がかかります。認可が下りるまで、なんだかんだで1年半くらいかかりました。