100メートル先のコンビニに行くのを諦める――。車いすユーザーのそんな声をきっかけに電動車いす「WHILL」プロジェクトは始まりました。車いすは一般的にネガティブなイメージを抱かれがちです。でも考えてみればメガネだって、昔は目が悪い人だけが使うネガティブなものとして捉えられていました。それが今ではファッションアイテムになり、「グーグルグラス」のようなメガネ型の端末まで出ているわけです。だから車いすにしても便利でスマートであれば楽しくなり、極論すると、誰もが乗りたくなるはず。そのための手段として、車いすのデザイン性と機能性を高めることを考えていきました。

デザインした人 杉江 理(WHILL代表)

見た目の面では、とにかく乗り物に見えるようにしたかった。一般的な電動車いすは上部が椅子、下部がタイヤで構成されています。でも、室内で使ういすが動いていることは違和感につながりかねない。だからWHILLでは座席とタイヤにフォーカスが当たらないよう、それらの色をすべて黒にして目立たなくし、ハンドルアームにフォーカスが当たるようにしました。

乗り物に見えるようにするために、最も変えようとしたのが車いすに乗る人の姿勢です。そのため、車体を操作するハンドルは前方につけています。考えてみてください。車でもバイクでもハンドルは決まって前にある。だから、運転者がアクティブな前傾姿勢になるわけです。

そのハンドルを進みたい方向に押せば、最高時速6キロメートルのスピードで動きます(各国の法律による)。さらに、凸凹な歩道や砂利道を走破しながら7.5センチ程度の段差を越えられる四輪駆動のタイヤ、24個の小さなタイヤからなる小回りの利く前輪、「ブルートゥース」の搭載……、スペックを見れば行動範囲が広がることがわかると思います。今後はどこにいるかを知らせるためのGPS機能などを内蔵しようと考えています。