“Cool!”と話しかけられる車いす

【田原】認可が下りたから、もう堂々と売れる?

【杉江】はい。実際にお届けできるのは今年の末からです。

【田原】じゃ、これから注文がばんばん来ますね。

【杉江】これまで日米合わせて約800台販売しましたが、アメリカの市場は競合が多く、楽観視していません。僕らはまだ小さな会社。これからだと思っています。

【田原】試験販売で買った人の反応はどうでしたか。

【杉江】堂々と外に出ていけるようになったという声が多いですね。アメリカで車いすに乗っていると、「May I Help you?」とよく声をかけられるそうです。しかし、WHILLに乗っていると、まず「What is this? It’s so cool!!」と話しかけられ、そこから会話が広がるのだとか。WHILLがコミュニケーションツールの一種になっているようです。他にも、犬の散歩に行けてうれしいという方もいました。犬は舗装されていない砂利道やあぜ道を歩きたがりますが、これで一緒につきあえるようになったそうです。

【田原】そうですか。出かけるのが楽しくなりそうですね。

「副業禁止」に引っかかり、日産を退社

【田原】WHILLができるまでの流れもおうかがいします。杉江さんは大学を卒業して、まず日産自動車にお勤めになった。なぜ日産だったのですか。

WHILL CEO・杉江理氏

【杉江】当時はカルロス・ゴーンがやってきたばかりで、勢いがありました。ここしかないと思って、就活では日産しか受けませんでした。

【田原】それなのに2年で辞めてしまいますね。どうして?

【杉江】もともとものをつくることが好きで、友人たちといろんなものをつくっていました。たとえば開けやすいペットボトルだとか、風を可視化するアートだとか。ところがそれが会社にバレて、人事から呼び出しがかかりました。会社は、副業禁止規程に引っかかるからダメだと言う。でも、社外の活動をする社員がいてこそ会社は活性化するはず。そう弁明すると、余計に危険人物扱いされました。それならもういいや、辞めてやろうと。

【田原】サラリーマンを続けながらでは無理だった?

【杉江】そうですね。本当は両方続けたかったのですが、ほかの活動をやめて日産に残るか、日産を出てほかのものをつくるのかという2つの選択肢しかない状況になったので。誤解のないように言うと、日産で働くこと自体は楽しかったです。ただ、長い人生、どちらのほうが謳歌できるのかと考えたとき、外に出たほうがいいと思ったということです。