「Sansan」はみんなに秘書を付けるサービス
【田原】寺田さんは名刺管理サービス「Sansan」を起業します。名刺に着目したのはなぜですか。
【寺田】名刺に課題と可能性を感じたということに尽きます。紙の名刺を交換するのは前近代的で、昔から何も進歩していません。ただ、儀礼的なものだからといって、もらった後は捨てていいというものでもない。後から必要になって見返すなど、何かしらの価値は宿っています。それなのに、これまではろくな管理方法がなかった。
【田原】管理方法が課題?
【寺田】はい。前職時代、会社にいると先輩からこんな電話がよくかかってきました。「俺の机の上に名刺の束がある。上のほうに何とかさんの名刺があるはずだから、探して電話番号を教えてくれ」。いい管理方法がないから、こうやって時間を奪われてしまうわけです。
【田原】僕はそんなに不便を感じたことがないけど。
【寺田】それは田原さんが偉いからです。偉い人は管理を誰かがやってくれますが、ほとんどの人に秘書はついていません。
【田原】なるほど、「Sansan」はみんなに秘書をつけて名刺管理の手間をなくすサービスなんですね。
【寺田】メリットはもう1つあります。それは、誰と誰が会ったのかという情報を社内で共有すること。たとえば私がアメリカから商品を持ってきて、日本の会社のある部署に売り込みたかったとします。まわりに伝手(つて)がないかどうか一応聞きますが、普通はそんなに簡単に見つからないので、飛び込みでアプローチするかという話になるでしょう。それで、飛び込みもうまくいかずに落胆しているところに、隣の部署の同僚がやってきて、「あの会社のあの人、よく知ってるよ」といって名刺を見せる。前職時代によくあった光景ですが、社内の誰が誰といつ名刺交換したのかという情報がデータベース化されていれば、このような非効率なことをなくせますし、ビジネスのチャンスが広がります
「名刺をデータベース化する」とは?
【田原】ちょっとわからない。データベース化するって、どういうことですか。
【寺田】名刺をデータベース化すると、検索が簡単にできるようになります。たとえばわれわれのサービスサイトに弊社の社員が田原さんのお名前を打ち込むと、「何月何日に寺田と会った」といった情報が瞬時にわかります。弊社でいうと、いま約10万枚の名刺情報が入っています。この枚数の紙から目当ての情報を検索するのは無理。データだから検索できるのです。
【田原】紙の情報をどうやってデータベース化するのですか。かえって手間がかかりそうだけど。
【寺田】ユーザー企業にはスキャナとタブレットPCをお貸し出しします。そのスキャナに名刺をドカッと入れて読み取ったら、すぐにデータとして検索ができます。ユーザーにはデータベース化する手間はほとんどかからないし、逆に紙で管理する必要がなくなったぶん生産性は高まります。人的コストを減らせるほどのインパクトを持っていると思います。
【田原】名刺情報をデータベースで共有して役に立つのは営業ですか。
【寺田】メリットが分かりやすいのは営業ですね。ただ、使うのは営業に限りません。役員をはじめ、企画、人事、経理などの担当者が名刺交換した相手がキーマンになるかもしれない。会社として外交記録がすべてデータベース化されることに価値があると思っています。
Sansanは「~さん」「人」という意味
【田原】起業した会社の名前も、商品名と同じSansanですね。これはどういう意味ですか。
【寺田】「~さん」はグローバルで通用するもっとも有名な日本語の1つで、人を表す言葉でもあります。いい換えると、Sansanは「人人」。名刺交換は人と人がつながるイメージなので、ぴったりだなと。
【田原】起業は2007年ですね。何人で起業したのですか。
【寺田】5人です。そのうち営業は私を入れて2人でした。
【田原】お客さんの反応はどうでした?
【寺田】名刺をデータベース化するといいということについては、みなさんうなずいてくださいます。ただ、今までないサービスなので、「こういう理由で値段はいくらです」と単純に言えるものではなく、乗り越えなくてはいけない壁は高かった。先ほど話したシリコンバレーのベンチャーのように、最初は未来を語って買っていただくというアプローチでした。
【田原】実際、いくらで売ったのですか。
【寺田】最初はユーザー10人で月額10万円です。いまより5倍くらい高い価格設定です。強気に設定したのは、類似するサービスがなかったから。類似したものがあると比較されてしまいますが、「Sansan」はそうでないので、思い切ってやろうと。それでも最初の1年で約100社のお客様がご利用くださいました。
【田原】つまり競合がいないので、相場を自分たちで決められると。でも、どうして競合がいないんだろう。名刺は昔からあるのに。
『起業家のように考える。』(プレジデント社)
いま話題のサービスを立ち上げた起業家たちは、何もないところからどのようにキャリアを形成し、今に至ったのか? 18人の起業家にジャーナリスト田原総一朗が鋭く切り込む。
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著者 田原 総一朗
著者プロフィール