ここまで厳しい基準で作られているのは、バッテリーのトラブルが「燃える」という大きな問題につながるからである。「1000万個作っても数個しか重篤な問題が起きない」というのは厳しい水準だが、それが「モノ作りの日常」でもある。その中で、どこかでボタンを掛け違うと、大きなリコールに発生する。筆者の知るバッテリー関連の技術者は「直接の原因や状況は知らないので、詳しいコメントは避けるが」とした上で、次のように話す。
「特に生産速度と品質の関係は大きい。技術的な配慮をした上で、急ぎすぎないこと・慎重に生産することを日々心がけている。とはいうものの、Samsungのトラブルも他人事とは思えない」
なぜ、飛行機に乗るときにモバイルバッテリーを預け入れ荷物にできないのか
では、バッテリーはどうして燃えるのだろうか? 根本的に言えば、リチウムイオン充電池は熱くなりやすい。万が一の事態になると燃える可能性が高く、容量が大きいほどトラブルは大きくなる。
現在、旅客機に乗る場合、モバイルバッテリーなどを預け入れ荷物に入れておくことはできず、必ず手荷物として持ち込む必要がある。その理由は、万が一発火事故が起きた時に、預け入れ荷物だと、火の手が大きくなるまで気付きにくいためだ。中国などでは、持ち込めるバッテリーの容量にも厳しい制限が課せられているほどである。また、リチウムイオン充電池は、火中に投じれば激しく燃える。だから、使い終わったリチウムイオン充電池は必ず回収に出す必要がある。
とはいえ、リチウムイオン充電池には様々な「トラブルが深刻なものに至らない」ようにする仕組みが採用されていて、普通に使っていれば問題が起きないように作ってある。以下に紹介するようなトラブルがあっても、それが即発火事故につながるわけではない。とはいえ、やはりなにが危険かを知っておき、トラブルを避けるべきであることに違いはない。
「破損」「社外品」「異常発熱」に注意
まず危険なのは「物理的な損傷を受けた」時。折れ曲がったり、なにかが突き刺さったりするとショートが起き、異常発熱に至る可能性がある。スマートフォンの場合、本体が曲がったりした場合には損傷の危険もあるので、すぐに使用を止め、メーカーに相談した方が良い。
次に「充電の異常」。リチウムイオン充電池は過充電に弱く、発火事故につながりやすい。そのため、充電器・充電池の両方に保護回路を入れ、過充電を防止する仕組みが必ず採られている。
とはいえ、トラブルも起きる。特に多いのが、スマートフォン純正でない充電器とケーブルを使う場合だ。粗雑なものを使うと、適正な状態で充電が行えず、事故が起きやすい。信頼できるメーカーのものであれば大きな問題につながることはないと思うが、購入時には自分の使うスマートフォンが対象機種に含まれているかどうかくらいは、確認しておいた方がいい。意外に多いのが、デジカメのバッテリーでのトラブルだ。安価な「互換品」の中には粗雑な環境で作られたものもある。中には「純正」を謳ったニセモノもあるようだ。大抵は「バッテリーが想定より短い時間で切れる」といったトラブルで済むが、最悪の場合には発火に至る。最近のスマートフォンはバッテリーを交換できないものが増えたため減少傾向にあるが、スマートフォン・携帯電話での発火事故のうち、ある程度の比率が、純正でないバッテリーを使ったものであった、と聞いている。
なお、充電の異常に伴って発熱が起きたり、バッテリーをストーブの近くや直射日光のあたる夏場の自動車の中などに放置して異常な熱を周りから受けたりした場合には、バッテリー内部で化学反応が促進されてガスが発生し、その結果、異常な放電状態となり、最悪の場合発火事故につながる。ケーブルが傷んでいたり、コネクタに異物が詰まっていたりした結果、そこでショートが起きて発熱し、そこからバッテリーの事故につながる可能性もある。ケーブルやコネクタも、常に正常を保ちたい。