「あまり露骨にベタベタ褒めるのはよくありませんが、日本人特有のちょっとドライな人間関係の距離感よりも、少しだけ踏み込んで心情に訴えかける感じが、部下のモチベーションをより上げるのだと思います」(河野氏)

人の話に自分の話をかぶせないのも、部下とのトークにおける重要項目だ。実はこれ、対顧客・対上司にも言えることだ。なぜ、かぶせてはいけないのだろうか。

「ひとつは、早とちりを防ぐことです。日本語の文法の構造上、話を最後の最後まで聞かないと、否定しているか肯定しているかがわかりません。『……だと思う』のか『……ではないと思う』のか。話の方向性は180度違います。だから、途中で部下の話に『あ、その件はね……』などと口を挟むと、相手の意図と反した理解をしてしまう危険性があります。相手との距離が近いケースほど、ふだんから1を聞いて10を知る、といった会話のリズムができていて、つい口を挟んでしまうのです。

2つ目は、相手の感情を害さないようにするということ。部下であれ、顧客・上司であれ、自分の考えや思いを伝えたくて話をしています。これから話の核心というところで、話をかぶせられたり、遮られたりすると、非常に腹立たしくなります。そうなると、うまくいく話や商談も、感情のもつれによって、誤解を呼んだりご破算になったりすることが少なくありません」

河野氏の経験では、この話をかぶせることのリスクは外国人ビジネスパーソンを相手にした英語トークでも同じことが言えるという。話を遮るとそれまで穏やかに話していた外国人が急にヒートアップし、議論が紛糾してしまうことがあるのだ。「話を遮らない」は万国共通のルールなのだ。

河野英太郎
デロイト トーマツコンサルティング シニアマネジャー。
1973年生まれ。東京大学では水泳部主将として活躍。大手広告代理店などを経て現職。著書に『99%の人がしていないたった1%のリーダーのコツ』。
 
土岐大介
前ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント代表取締役社長。
1961年生まれ。日本鋼管、日興証券、ゴールドマン・サックス証券および上記を経て、現在は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授、東北大学特任教授。
 
(堀隆弘、平地勲=撮影)
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