合併反対文書を送り、面談を申し入れた
両社が経営統合にこだわるのは石油業界のおかれた厳しい事情がある。
石油業界は人口減やエコカーの普及により国内の石油需要が減少。2000年の2億4322万キロリットルをピークに15年度は約3割少ない1億7738万キロリットルになっている。元売り各社は石油の精製能力が需要に対して過剰となり、ガソリン価格の値下げ競争に陥っている。
政府は2009年、製油所の再編を促す「エネルギー供給構造高度化法」を成立させ、2014年6月、石油元売り各社に対して2017年3月末までに生産能力の1割を削減するよう迫った。
経済産業省は2030年には石油の需要は2015年と比べるとさらに約3割減ると予想。業界再編が推し進められている。そのような中で昭和シェルと出光は2015年7月30日、経営統合の基本合意を、11月12日には統合の形態を合併とする基本合意を締結したことを発表した。
昭和シェルと出光が経営統合すれば連結売上高は単純合計で約7兆6000億円、業界トップのJX(売上高約10兆9000億円)に迫る。また出光3カ所、昭和シェル4カ所の製油所を一体運営し、両社で約40カ所の油槽所の重複を解消。計7000カ所の系列給油所(SS)の配送を効率化することで5年間で500億円の合理化効果を見込んでいる。
「精油所を閉鎖することはありません。私どもの精油所のロケーションと昭和シェルの精油所はバランスがいい。われわれは北海道、千葉、愛知。われわれの精油をほかの地域のガソリンスタンドに輸送するためには内航船タンカーを使って油槽所にいき、それをタンクローリーで2次配送するという形をとっています。製油所が日本全国にあればそこから直接タンカーで配送できるわけですから物流を効率化することができるようになります。しかもロケーション上は重なるところがないので閉鎖する必要もない。SS網も重なるところが少ないので、こちらも統廃合する必要がありません」(出光興産広報担当者)
しかし、合併の話を聞いてびっくりしたのは出光昭介名誉会長だった。出光名誉会長は2015年12月17日、月岡隆社長に合併と株式取得に反対すると明記した文書を送り、面談を申し入れた。そのとき月岡社長が指定したのは翌年の1月29日、その後、出光興産から連絡はなく、5月23日に合併に反対する見解を内容証明郵便で送付、6月9日に月岡社長と再び面談したという。
「6月9日に先立つ6月6日にはすでに株主総会招集通知が取締役会で決議され、同招集通知には昭和シェル石油との経営統合の実現に向けて準備を進める、と記され、出光家が反対していることは一切触れられていませんでした。月岡氏のこのような対応は、出光家に不信を抱かせたばかりか、昨今取りざたされている株主の権利、株主との対話を重視するコーポレートガバナンスコードの理念にも反しています。大株主の反対を知りながら、その重大性を認識して対応してきたとは感じられません」(浜田弁護士)
これに対して出光興産サイドは見解が全く違う。
「昭和シェルの株を買うという話はこれまでにも名誉会長にはご報告してきていますし、了解を頂きながら説明しています。変わったのは去年の12月から浜田代理人が(交渉に)入られてから雲行きが変わってきた。そこがどうなんだろうと思っているのです」(広報担当者)
こうした会社側の説明に対して浜田弁護士は「昭介さんをはじめてとした一族に対して納得できるような説明をして同意を取り付けてなかった」と反論する。