本当の意味での対等合併ができるのか
では、なぜ創業家がこれほど昭和シェルとの合併に反対するのか。出光興産の筆頭株主の日章興産代表取締役で顧問弁護士でもある浜田卓二郎弁護士に話を聞いた。
――出光興産と昭和シェルとの合併で創業者一族が反対しています。
【浜田】合併に関する基本合意書が2015年11月12日に出ています。7月には昭和シェル石油の株の譲渡契約と企業統合の合意の発表がありました。しかし、その後昭介さんをはじめとした一族に対して合併について納得できるような説明をして同意を取り付けてなかった。会社側にいわせれば「株主の一部を特別扱いはできない」ということのようです。しかし、合併に関しては株主総会の特別決議(株主の3分の2の同意が必要)にかけなければならないのですが、否決権のある3分の1の株式をもっている一族ですから当然そうした説明を受けるべき立場だったと思います。ところが実際問題としては合併合意書が出て初めて事の次第を知り、びっくりして私どもに依頼があったのです。
――合併に反対される最大の理由は何ですか。
【浜田】最大の理由は、本当の意味での対等合併ができるのか、ということなのです。これは合併比率の話をしているのではありません。1対1.5だっていいんです。2つの企業が一緒になるというのは実は大変なことなのです。出光興産が昭和シェル石油の株をTOBで取得し、その後合併する計画が当時は進んでいたのですが、昭和シェルサイドには先鋭な労働組合があり、給油所(SS)や製油所が大反対し、合併が頓挫したのです。頓挫した後に昭和シェル石油の株を東燃ゼネラルが買い集め、買収が進むところまできていたのですが、こちらの合併話も失敗して急きょ出光興産が昭和シェル石油の株式買収協議に入ったのです。しかしTOBで株式の取得をされて子会社のようにぶら下がるのが嫌だといって吸収合併に反対した経緯がありましたし、株式だけを買われるのもメンツの問題も含めていろいろあったのでしょう。だから昭和シェル石油の株式の譲渡契約締結の記者会見に昭和シェル石油も同席する記者会見になったようです。会社も急いでいたんでしょう。創業家に対して十分な説明し納得を得るという手続きが取られてなかったんだろうと私は推測します。
――会社側はなんども経営統合について説明し、了解を得ていると説明しています。
【浜田】「検討している」といった類の話はあったかもしれませんが、いきなり合併の基本合意書が出てくるとは昭介さんは理解していなかったわけですよ。いったん頓挫した合併話が株式取得と一緒に息を吹き返してきた。それにそんな簡単に合併効果を出せるわけないでしょう。出光興産は民族資本で、戦後、セブンシスターズのような石油メジャーと呼ばれる大資本と独自路線で対決してきた。国内でも政府が事実上の元売りの元締めのようなことをしている中で独自の立場を歩んできた。一方で昭和シェル石油は昭和石油とシェル石油が合併した会社で、筆頭株主はロイヤルダッチシェル、第2位株主はサウジアラムコ。労働組合もあれば、SSは特約店形式で運営されている。これだけ違った歴史や体質、構造をもった企業が一緒になってあっという間に合併の効果が出てくるなんて通常考えられないのです。むしろ石油危機ですから、こういうときには全社一丸となって今までの出光の社風を生かしながら、自己の合理化努力、販売努力に専念すべきなんじゃないかといっているわけです。経営上の判断として合併に逃げ込むのは適切ではない、それを大株主として指摘する責任があるという思いが昭介さんにはあるのです。