農業界の縦割りは悲劇

――お話をお聞きしていると、常に事業領域の拡大に取り組んでおられるように感じます。

野菜工場の様子

【針生】農業って全部縦割りできたんです。キャベツならキャベツ、根菜なら根菜。その縦割りの垣根を超えて、ボーダーレスにやれば、生産性は上がるし、結果的に食卓イノベーションに行きつくんです。コメ作りにしても大規模な農業会社のコメと小さな農家のコメを分けても意味はない。そうではなく、美味しいご飯、美味しいおかず、美味しい飲み物の三位一体で考えています。

要は食卓を考えれば、コメだけ食べている人はいないわけです。やっぱりご飯とおかず。おかずも肉を食べたり、魚を食べたり。飲み物もワインもあれば、日本酒、ビールもある。食卓全体を考えれば、農業界の縦割りは悲劇ですよ。だから、垣根を全部取り除いて、食卓全体を一括で管理、マネジメントすればイノベーションが起きます。

――なるほど。そうするとバリューチェーンが広がっていかざるをえない。

【針生】はい、そうです。掛け算になりやすい。非常にモデル的にはやりやすいんですよね。

さらに美味しさだけでなく、体にいい、となれば安心して食べていただける。僕らは「医食同源」という観点から某大学医学部の東洋医学の権威の教授にご協力をいただいて、そこを突きつめてブランド商品を開発しています。

――これまで、カット野菜を納める大手コンビニチェーン、共同で精米工場をつくられたアイリスオーヤマ、医食同源での某大学医学部と、非常に優れたパートナーを見つけて提携してこられていますが、パートナーを選ぶ基準って何でしょうか。こういう相手と組むといいよ、というアドバイスはありますか。

【針生】われわれは資金力が潤沢ではありません。債務超過を脱却して自己資本比率をどんどん上げていかなきゃいけない。そのためには何でも1番を目ざしていかないと。やっぱり2番でいいと思ったらもったいない。結果的に日本で50番、100番以下になり下がったとしても、思いはいつも一番を目指していきたい。

――それがパートナー選びにも?

【針生】そうです。僕はナンバーワンの相手にばっかり、常に体当たりで協力をお願いしてきました。最近、ナンバーワン慣れしちゃってね(笑)。他の人は怖じ気づいてナンバー3とか5に行くけど、ナンバーワンにはナンバーワンの未曾有の開拓精神がある。そこは全然違います。そういうスピリットを共有してやっていきたいと思っています。

(後編に続く)

(大和田悠一(有限責任監査法人トーマツ)=聞き手 山岡淳一郎=文・構成 尾崎三朗=撮影)
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