農業のビジネス化に成功している日本各地の有力農業生産法人を、大手監査法人トーマツの農業分野コンサルタントが訪ねる本連載。仙台市に本拠を置く株式会社舞台ファームは、コメや野菜の生産、加工、販売を一体的に手がけている。本社の隣の工場でキャベツやレタスなどが細かくカットされ、袋詰めにされて東北地方のコンビニエンスストア約1200店、県内外のスーパーに届けられる。
針生信夫社長は、この地で約300年続く農家の15代目。舞台ファームの「舞台」とは、もともと針生家の屋号である。針生社長は2003年に生産者仲間と舞台ファームを創設し、革新的な農業経営を続けてきた。東日本大震災で存亡の危機に直面したが、起死回生を果たし、13年には生活用品製造卸大手アイリスオーヤマと共同出資で、精米会社「舞台アグリイノベーション」を設立。宮城県亘理町に国内最大級の工場を建設した。
16年6月期の売上高(単体)は22億円に上る。その成長を支える戦略、戦術について縦横に語っていただこう。
市場に出すのも自分で食べるのも同じ
――現在、御社は第5ステージを迎えておられるそうですが、これまでの歩みとそれぞれのステージを、どうとらえていらっしゃいますか。
【針生】個人でまず売上1億円まで生産拡大したのが第1ステージでした。そして農業生産法人を設立してBtoBの契約栽培に入ったのが第2ステージ。ここで一種の業務用納品会社を立ち上げたんです。商品の野菜が手元にないときは市場から買い、あるいは全国、東日本に産地ネットワークをつくって集荷して届ける。自分の農場プラス業務用納品会社を思いつきました。
第3ステージでは、カット野菜を始めました。大手コンビニチェーン向けのベンダーに納品させてもらいながら、品質管理などのノウハウを蓄えた。第4ステージでは、そのカット工場を加工用野菜からより難しい菌管理が求められる生食用のカットサラダもできるように進化させて、いま、第5ステージ。「直営農場の拡大」を図りながら、「赤ちゃんが食べても安全で安心な生産物を、農場から食卓へ」という基本を大切にして、食育や少子高齢化の社会情勢に対応していこうと考えています。
――「赤ちゃんが食べても安全、安心……」は、社是、理念の核心ですね。
【針生】会社を作って13年になりますけど、ずっとそれをトップに挙げています。昭和の時代に「針生さん、自分で食べる野菜には農薬使わないで、市場用には使ってるでしょ」ってよく言われました。いや、僕は市場に出すのも、自分で食べるのも、まったく同じですよ、と実践してきました。その基本に忠実にやりたくて、この言葉にいきついたんです。