「かかりつけ農家」になるために

――震災を機に産地間競争から、広域連携へと舵を切られましたね。

アイリスオーヤマとの合弁会社、舞台アグリイノベーションの巨大工場。被災地である宮城県亘理町に立地する。

【針生】はい。緊急時の食料支援のありがたさが身にしみました。医療で「かかりつけ医」があるように食料でも「かかりつけ農家」があるといいと思ったんです。被災地の半径1キロ以内に農家があれば、コメがある、井戸もあるかもしれない。野菜も手に入る。そういう農家を、いざというときのために広域的にネットワークでつなぐ必要があると痛感しました。産地間で競争している場合じゃない。全国規模で取り組まなきゃ、農家は共倒れします。

震災後、各地を訪ね歩いて協力者が増えました。いまは、北海道、岩手、新潟などの約650ヘクタールで共同生産しています。そこのコメが「舞台アグリイノベーション」の工場に集められて、保存、精米、包装の全工程を15度以下の低温で行い、鮮度を保ったまま国内外へ出荷しています。

――商品を選ぶ基準とか、儲かる商品の特徴は何だとお考えですか。

【針生】原料は農場、商品生産は2次産業、販売は3次産業という考え方がありますが、分けてちゃダメでしょう。生産、加工、流通、販売を一元的にやらないと、利益は出ない。そこが第一です。見せ方やアレンジメントで100円のものを200円で売るのではなく、せいぜい1.1倍とか1.2倍程度で、赤ちゃんにも安全に食べてもらいたい。

――目先の差別化にとらわれてはいけない、ということですか。

【針生】そういうデザイン的な付加価値じゃなくて、やっぱり仕組みで利益を出さなきゃいけません。そこは他の農業法人とわれわれの考え方のまったく違うところですね。

――消費者の商品に対する「値ごろ感」もありますよね。

【針生】そうそう。値ごろ感は、一人一人が持っています。それを僕たちはフェアプライスって呼んでいます。値ごろ感を裏切ってはいけない。

ただ、お米の品種も、年によって、皆さんが求めるものはどんどん変わります。嗜好の変化を受けとめながら、ひとめぼれ、あきたこまち、コシヒカリ、ゆめぴりか、それぞれの食べ比べセットをつくってみる。ちょっとだけ食べて、別のコメを食べてみたい。あるいは手巻き寿司用にオリジナルな配合をやってみる。あきたこまち8割、宮城のひとめぼれ2割とか。お父さんのスペシャルブレンド米、これがわが家の手巻き寿司には一番向いているね、という楽しみを提案すれば、需要創造ができて、コメの消費も伸びるのではないでしょうか。