これは仮説思考による見事な再生事例だと思います。年配の女性の受けがいいことは旅館のスタッフも感覚的に捉えていたのでしょうが、それを顧客データという形で定量的に分析した結果、経営資源のメリハリをつけていないという問題が浮き彫りになりました。そして、「年配女性にフォーカスすべきではないか」という仮説にたどりついたわけです。

再生のプロである星野社長の頭の中には早い段階からそうした仮説があったのかもしれませんが、コンセプトづくりには現場の“共感”が重要であり、再生の推進力になるという考えから、仮説思考の手順を誰の目にも見える形で踏んだのだと思います。

星野リゾート・「湯の宿いづみ荘」の再生例
図を拡大
星野リゾート・「湯の宿いづみ荘」の再生例

仮説思考の要はやはり仮説構築です。当てずっぽうな仮説でスタートすると、かえって仕事の効率が落ちます。星野社長のように豊富な経験に裏打ちされた仮説構築の思考回路があるなら話は別ですが、自信がない場合は、情報収集を行って、状況の棚卸しや構造化に取り組むほうが結果として早道になるでしょう。

コンサルタントは精度の高い仮説を構築するために、各種の情報分析ツールやフレームワーク(問題の構造化につながる考え方の枠組み)を使いこなしますが、ここでは専門的な知識に頼らずとも仮説のヒット率を高められる簡単な方法を一つご紹介しましょう。

それは自分が思いついた仮説を他人に言ってみること。つまり仮説をアウトプットすることです。アウトプットした仮説に相手がどう反応するか。考え落ちのある仮説では反応が鈍いし、鋭い反証が返ってきます。逆にいい仮説は相手に刺さってハッと気づかせ、共感を得やすい。

黙って一人で考え込んで、提出日に満を持して発表したら「う~ん、それって普通じゃない?」と受け取られた経験はありませんか。むしろ合間合間にジャブを入れて周囲の反応を見たほうが、いい仮説にゆきつくものです。

自分では仮説が思い浮かばないと思ったら、他人の知恵を拝借してもいい。いろいろな立場の人にヒアリングすると、自分の先入観や前提条件の間違い、新しい視点に気づかされることもあります。

もちろん、自分の仮説思考力を鍛えることも忘れてはいけません。私は普段から仮説検証を思考遊びのようにやっています。たとえばテレビでトヨタのプリウスとホンダのインサイトの特集をしていたら、与えられた情報の範囲内で分析してどちらが売れるか仮説を立てる。その後、新しい情報を仕入れたら、それを付加して仮説を検証・修正してゆく。

何でも構いません。オバマ大統領の政策は成功するか。ガソリン価格は上がるか下がるか。いろいろな仮説を立てておいて、情報を拾いながら検証・修正する。

野球やゴルフのミート率と同じで、ちょっとした素振りでするフォーム固めが効果的なのです。

(構成=小川 剛)