効率と非効率は陽と陰のようなものだと私は考える。どちらがいいか悪いかではない。陰陽のバランスが崩れれば世の中が乱れる。効率を追求するあまり、バランスが崩れているのが今の社会だ。掃除という非効率はそのバランスを整える。世の中にその効用を広めようと、23年前に「日本を美しくする会」をつくったが、この活動は国内はもとより世界にも広まってきた。

ハガキも、掃除をするのと同じ気持ちで書いている。平成4(92)年に「ハガキ道」の創始者として知られる坂田道信氏と出会い、「複写ハガキ」を勧められた。50枚綴りのハガキ帳に、コクヨのカーボン紙をはさんで書く。文面がハガキ帳に残される仕組みだ。ボールペンで強く書かないと、うまく複写できないので、どうしても筆圧が強くなる。1日でハガキ帳1冊を書きつくすこともあって、書き終えると指が固まって伸ばすのに苦労する。

今の世の中、手書きは確かに非効率だ。指も痛くなる。カーボン紙を挟んで書くのも面倒だ。けれどこの方法なら、書いたものはすべてハガキ帳に残る。以前に書いたハガキの内容をすぐに確認できるし、達成感もある。

内容は頂いたお手紙やハガキへの返信や、礼状がほとんどだ。今は講演活動も多く、一度に何十通ものお手紙を頂くこともあって、すべてに返信を書くのは難しい。だから懇意にしている方は後回しにし、初めてお会いした方や、お目にかかったことのない方への返信から書くことになる。

そのとき、時候の挨拶は書かない。用件から始める。ハガキは紙幅が限られているから、用件をハガキ1枚にすべて盛り込むことを心がける。ある豆腐屋さんから、とても美味しい豆腐を頂いたときに「うまい、うまい、うまい」と3言だけの返信を書いたこともあるが、そういうことは稀だ。気の利いた文面よりも、ハガキはとにかく書くことが大切だと思う。