最も使った言葉は「疾風勁草」

私のデスクには、いつも2冊の本が置かれています。『必携 手紙実用文辞典』と『「四字熟語」の辞典』です。前者は目上の人に挨拶状やお礼状を出す際、きちんと手紙の形式にそうように書くために使います。例えば、5月なら時候の言葉は「薫風の候」で間違いないか、といった具合です。ほかに、お悔みのときに使ってはいけない言葉を確認する際などにも重宝します。

西武ホールディングス社長 後藤高志氏

一方、四文字熟語の本は、相手に託す思いを簡潔な言葉で表したいときに開きます。私はそんなに筆まめなほうではないのですが、フォーマルな手紙を書くときには、「一期一会」「千客万来」など、気の利いた四文字熟語を使いたいと思っています。文章に盛り込むことで、キーワードとして伝わりやすいと思います。

四文字熟語は社員に対してもよく使います。なかでも、2005年2月に西武グループ入りしてから、一番多く使ったのが「疾風勁草」でしょうか。「疾風に勁草を知る」と読む中国の『後漢書』にある言葉で、強い風が吹いたときに初めて、それに負けない草が見分けられるという意味です。

実際、この10年間は非常に厳しい時代でした。なにしろ、西武鉄道は総会屋に対する利益供与で逮捕者を出し、有価証券報告書の虚偽記載で上場廃止となってしまったわけです。世間からもバッシングされ、社員もみんな逆風に肩をすぼめて仕事をしていました。

私は、西武に来て最初の記者会見で「朝の来ない夜はない」と話しました。これはみずからを鼓舞すると同時に、グループ社員一人ひとりに伝えたかったことでもあります。この気持ちは、いまにいたるまで一貫して変わることはありません。

その後、5月には西武鉄道社長に就き、持ち株会社によるグループ再編を決定しました。そのキーワードが「峻別と集中」でした。一般的な「選択と集中」という表現はあえてしませんでした。選択ですむほど生やさしい改革ではないと覚悟したからです。

これを徹底した結果、120あったグループ会社が55社にまで絞り込まれました。社員も疾風に耐えて勁草に育ってくれています。2014年4月には西武ホールディングスの株式上場も達成することができました。