ハガキも掃除も「始める」ことから

もっとも、書き始めるのがいちばん難しい。いざ書こうとすると億劫になる。だから私は、今日は何枚かハガキを書こうと決めたら、まず控えめに3人分の宛名を書く。宛名を書くと、本文も書き出しやすい。書き始めれば、怠け心はどこかへ消える。

掃除も同じ。東京にいるときは、朝4時に起きて近所の公園の掃除を続けている。手は傷やアカギレだらけだ。疲れがたまっていて、億劫に思うことはある。それでも、「疲れたら帰ればいい」と思って腰を上げるのだが、行けばいつの間にか掃除に集中している。

「ゼロから1への距離は、1から1000までの距離より遠い」という格言がある。これだと思う。掃除もハガキも、まず始めることが大切なのだ。

誰にでもハガキは書ける。それはとても平凡なことだ。けれどその平凡なことを続けるのは、とても難しい。

今使っているハガキ帳は1450冊目。このハガキ帳を使い終われば、坂田さんに勧められてから23年間でハガキを7万2500枚分書いたことになる。以前なら考えられないほどの枚数だ。

誰にでもできることを、誰にもできないくらいやる。平凡なことを徹底的にやれば、非凡になる。何年もハガキを書き続けていれば、それがわかってくる。効率主義が行きすぎた今の世の中で、非効率きわまりないハガキを書き続ける意味はそこにあると私は思っている。

(左)鍵山氏が23年間にわたって続けている複写ハガキのハガキ帳と、書くために使った膨大な数のパイロット製のボールペン芯。薄紙の下にカーボン紙を敷き、市販のハガキへ文面を転写する仕組み。(右)今回の取材のため鍵山氏に筆ペンで書いてもらった、氏の信念。

イエローハット創業者 鍵山秀三郎
1933年、東京都生まれ。疎開先の岐阜県立東濃高校を卒業。61年にローヤル(現在のイエローハット)を創業、社長に就任。98年相談役、2010年退職。現在は「日本を美しくする会」相談役として、「掃除道」の普及に努めている。
(石川拓治=構成 的野弘路、田中宏幸(筆文字のカード)=撮影)
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