グレーゾーンが「広聴」を盛り上げる

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任講師

福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」、週休4日で月収15万円の「ゆるい就職」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施し、さまざまな企業の人材・組織開発コンサルティングなども行う。
若新ワールド
http://wakashin.com/

豊橋市にも、「広報」以上に「広聴」に力を入れていこうという理念があるようです。しかし、人口が37万人以上もいる中核市にとって、広く一般市民の声が聞こえるようにしていくというのは、簡単なことではありません。

今回の名称変更の申し立てのように、プロや専門家の市民グループが意見や反論を上げるということは、比較的やりやすい社会になっていると思います。新聞も、ちゃんとそれを報じています。しかし、そこまでは行動できない一般市民のちょっとした思いや考えは、なかなか表面化されません。もしかすると、そこにもいろいろなヒントやアイディアがあるかもしれないし、単に賛成か反対かだけではなく、「こういう場合にはこうしてみては?」という新しい選択肢が含まれていることも考えられます。

ところが、広報官がマイクを向けて「では意見やアイディアをどうぞ」と言ったところで、市民からそれがパッと出てくるはずはありません。街中に目安箱を設けても、自分の意見がちゃんとまとまってなければ、なかなかそういうところには投書しづらい……。

僕は、市民の声を「広聴」するために必要なものは、日常的で気軽な「おしゃべりの空間」を再現することだと思っています。そして、それを可能にしてくれるのが、今回のJK広報室のJKたちではないかと期待しているのです。

彼女たちがまちに出て活動をすれば、世代を超えたいろいろな市民とたくさんの「おしゃべり」が生まれます。そこには、豊橋市やその事業への意見や考えなども、当然含まれているはずです。そしてそのやりとりは、分かりやすい日常的な言葉で行われます。でなければ、JKとの「おしゃべり」は成立しません。だからこそ、正面衝突喧嘩上等の言論バトルではなく、話しやすくて楽しいコミュニケーションが可能になります。

もちろん、そこでも事業や名称に対する批判的な意見はあると思います。なにせ、「JK」という名称は「言葉のグレーゾーン」であり、プロジェクトまだまだ未完成状態です。しかし、それがいいのです。「商品PR」という言葉も、完成した商品ではなく、あえて未完成で不完全な状態の商品を消費者に使ってもらい、そこからどんどん意見を聞いて良くしていこうという活動から生まれました。さらに、「未完成状態」に関わった消費者は、自分が一緒に育てたという想いが生まれ、その後熱烈なファンになることが多いようです。

これから、JK広報室のメンバーたちが、豊橋のまちなかでどのような新しい市民コミュニケーションを生みだし、どのような変化を起こしていくのか、楽しみでなりません。

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