ダッチ・サンドイッチのカラクリとは

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グーグルのダッチ・サンドイッチの仕組み

先進国企業の税金逃れは、発展途上国の独裁者がやるような犯罪的な脱税と違い、法律的には合法だが道徳的に疑問符が付く「グレーゾーン」のものが多い。有名なのは「ダッチ・サンドイッチ」という、オランダを2国で挟むスキームだ。前述のグーグルは、全世界の広告収入をアイルランドの子会社に集め、それを一旦オランダのペーパーカンパニーに移し、次にタックスヘイブンであるバミューダに移していた。アイルランドの法人税は管理地支配主義なので、同国の子会社の管理・運営をバミューダ法人にやらせれば無税扱いにすることができる。さらに、租税条約で源泉税が免除になっているオランダに一旦送金してからバミューダに送金することで、送金時の源泉税も回避できるのである。

法人税ゼロのトヨタ、出遅れる日本

日本企業も、グーグルやアマゾンのような「アグレッシブ・アカウンティング」ではないにしろ、こうしたタックスヘイブンがらみの節税スキームを使っている。特に、経営の柱の1つが事業投資で、連結子会社だけで各社数百~数千もの子会社(事業投資先)を抱える総合商社では日常的である。また、オリンパスは、ケイマン諸島を使って粉飾決算を行っていた。

しかし、日本でタックスヘイブンがらみの企業の脱税が摘発された話はあまり聞かない。ましてやグーグルやアマゾンのような外国の大手企業のケースはなおさらだ。せいぜい、海外に資産を隠して相続税を免れていた個人の話を聞く程度である。これは、日本企業の税法遵守意識が高いこともあるだろうが、国税庁の戦略やノウハウ不足、外国からの捜査協力がなかなか得られないことも原因である。

リーマンショックやその後の欧州ソブリン危機で巨額の財政赤字を抱えた欧米各国は、徴税に血眼になっている。彼らにとって、パナマ文書は降ってわいたような好材料で、徹底的に利用するのは間違いない。

法人税は限られたパイの分捕り合いだ。トヨタ自動車は08年度から12年度までの5年間、海外で税金を払っていたが、国内では法人税を1円も払っていなかった。これなど外国にパイを取られた好例である。しかし、パナマ文書に関して、国税庁が調査に乗り出したという話もない。

いっぽう、イタリアは、税収増を狙って、グーグルのようにインターネット広告ビジネスを行っている多国籍企業がイタリアで広告を出す場合は、同国企業を通じた取引を義務付ける法律を13年に制定した。イギリスは、企業がタックスヘイブンを利用して逃れた利益に25%の税金を課す制度を15年に導入し、オーストラリアも類似の制度を今年から導入している。これらはいずれも「グーグル税」の通称で呼ばれる。

各国の課税強化で国際的な課税環境は大きく変わってきている。スイスやリヒテンシュタインなど、かつては非協力的だった国々も、捜査に協力的になってきた。18年からは日本もCRSに参加する。

国際的な税制の不統一や狭間を利用した税金逃れを摘発するのは世界的趨勢である。日本の税務当局も遅れを挽回し、しっかりパイを確保してほしいものだ。

黒木 亮(くろき・りょう)
1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院修士(中東研究科)。都市銀行、証券会社、総合商社勤務を経て作家となる。最新作は『世界をこの目で』。英国在住。
(撮影=萩原美寛 写真=時事通信フォト 図版作成=大橋昭一)
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