私の住むイギリスでは、タックスヘイブンで預金をするのはごく一般的なことだった。しかし、10年ほど前から源泉徴収が始まり、その率も徐々に上がり、今では税金上のメリットは完全に失われている。それどころか、タックスヘイブンに預金を持っているだけでHMRC(英歳入関税庁)から目をつけられ、税務調査に入られる。政府は、過去の申告漏れを期限までに自己申告すればペナルティが軽くなる制度も設け、申告を促している。

14年には米国にならって「UK FATCA」という新制度も導入された。これは「CDOT(シードット/Crown Dependencies and Overseas Territories=王室属領・海外領土)」と呼ばれるジャージー、英領バージン諸島、ケイマン諸島、バミューダなど10のタックスヘイブンの金融機関に対し、残高を含む英国居住者の口座情報の提供を義務付けたものだ。

摘発の実績も着々と上がっている。スイスの軽減税率を利用し、かつコーヒー豆を市場価格より高く仕入れたり、グループ会社への金利やロイヤルティの支払いで利益を圧縮したりしていたスターバックス英国法人に対し、13、14年の2年間、所得にかかわらず毎年1000万ポンドの税金を払わせた(同社は不買運動に直面し、欧州の本社機能を英国に移し、節税策をやめた)。去る1月には、イギリス国内で170億ポンドも稼ぎながら、バミューダ諸島などに利益を移して5200万ポンドしか納税していなかった米グーグルに対し、1億3000万ポンド(約207億円)を追加課税した。

欧州諸国は、OECD(経済協力開発機構)がつくったCRS(Common Reporting Standard=共通報告基準)によってタックスヘイブンへの監視を強化している。これは、加盟各国が自国の金融機関にある他の加盟国の居住者の口座情報(氏名、住所、納税者番号、残高、利子・配当の年間受取額等)を提供するシステムだ。加盟しているのは、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペインをはじめとするEU諸国の大半、ノルウェー、リヒテンシュタイン、マルタ、サンマリノなど欧州各国が中心で、英国のCDOT(すべてタックスヘイブン)、韓国、コロンビア、南アフリカなども加わっている。

欧州でも、タックスヘイブンを利用した企業の税金逃れが多数指摘されている。イタリア政府はアップルがアイルランドに利益を移して不当に法人税を逃れたとして、3億1800万ユーロ(約398億円)の追加課税をした。また15年には、アマゾンが税率の低いルクセンブルクの子会社にウェブサイト運営のための知的財産権を移し、同社の世界全体の売り上げの5分の1を占めるEUでの売り上げを集めていた問題で、EUの執行機関である欧州委員会が「ルクセンブルクの税優遇措置は合法性に疑義がある」と判断した。