需要創出型イノベーションの必要性

しかし、ケインズの経済理論はあくまで凋落し続けていたイギリス経済が抱える課題への処方箋として打ち立てられたものだった。シュンペーターはケインズの才能を高く評価する一方で、こうに指摘している。

「実用的なケインズ主義というのは、外国に移植することはできない高木なのだということも理解できるはずだ。外国の地ではそれは枯れてしまう。しかも毒を撒き散らして枯れてしまう」

激しい競争と急激な経済環境の変化の中で、日本を含む多くの国が、ケインズの提唱した有効需要操作による不況対策を繰り返している。その一方で、生産構造におけるイノベーション促進政策を怠り、結果的に国際競争力を失っている。

ケインズは経済状況の改善、失業の解消を目的に有効需要を生みだすための財政支出、金融政策の必要性を説いたが、これが先進諸国の放漫財政をもたらし、公共投資を巡る既得権益化が進展したことは否定できない。

シュンペーターが予言した「毒」は証明され、現在の閉塞状況を打破するためには、シュンペーターの理論に沿った需要創出型のイノベーションが求められている。これは、アベノミクスで致命的に欠けている、第三の矢の成長戦略にも通じる。いうなれば、ケインズとシュンペーターの理論は、相互に補完し合うべきものなのだろう。

3月の国際金融経済分析会合で、安倍首相と主要閣僚がノーベル賞受賞者であるスティグリッツ、クルーグマン両教授らと意見交換した。人に学ぶ姿勢は大事だが、それ以前に、より広範な経済に関する知識が与野党議員ともに不足しているのではないか。また、国会議員たちのたるんだ言動を見るにつけ、シュンペーター、ドラッカーが重視し、スティーブ・ジョブズを代表とする企業家・リーダーとしての真摯な姿勢が、日本の政治家には決定的に欠けているのではないか。そう痛感させられる。

【関連記事】
『シュンペーター 孤高の経済学者』
S・ジョブズは「消費者イノベーター」の先駆である
「ドラッカー」の売れ方、読まれ方-1-
「20年読み継がれる」入門書【経営・経済】
リストラだけでなく、イノベーションを起こせなければリーダーとは言えない