仕事の専門分野でなくても、一流のビジネスマンになるために学んでおきたいことがある。各界の第一人者たちが長く読み継がれる入門書を厳選してくれた。
スキルと違って自ら磨くしかない経営センス
経営を勉強するといっても間口は広い。実は「経営学」という言葉に対応する英語はない。しいていうなら、「Manage ment Studies」という複数形になる。経済活動から会計、マーケティング、人材マネジメントなど、幅広い領域にまたがって勉強しなくてはならないからだ。
企業の各部門の担当者を念頭に置けば、日常の仕事に生かせる実務的な専門スキルの習得がまずは大切だ。個別分野のスキル一つひとつを足し算していくことで、経営知識を獲得できる。その意味で『はじめての経営学』は、経営分野を一通り俯瞰することができる好著といえよう。
しかし、スキルをマスターしたからといって、優れた経営者になれるわけではない。経営は個別専門分野のスキルの足し算だけでは対処できない。自然科学であれば「こうすれば、こうなる」という普遍の法則があるが、経営に「絶対」はありえない。経営の現場ではスキルよりもセンスがものをいう。
そのセンスはスキルと違って自ら磨いていくしかない。それには経営センスに富んだものに触れることが最も大切だ。可能なら名経営者の“鞄持ち”をするのが一番なのだが、そんな機会はまずない。
そこで最も効果的で、コストパフォーマンスもいいのが読書。拙著の『戦略読書日記』では、これまで私が読んできた本のなかで経営センスを磨くのに役立ったものを厳選した。
次に紹介する3冊も、そこから取り上げたものである。
まず『プロフェッショナルマネジャー』。著者のハロルド・ジェニーンはすでに故人で、登場するITTという会社も今はこの世に存在しない。しかし、この本ほど「経営者とはこういうものだ!」ということを、まとめて記述したものはないだろう。経営は終わりから始めて、そこに到達するためにできる限りのことをするものである――など、経営の本質を淡々と語ってくれる。『「日本の経営」を創る』で経営学者の伊丹敬之氏と対談を行っている現役経営者の三枝匡氏は、経営者を育てることが経営者の最大の仕事と考え、部品商社のミスミの会長としてそれを実行している。
とはいえ、実際には「経営者は育てられない」というジレンマが存在する。そこで三枝氏は「直接的には育てられないが、育つ土壌は耕すことができる」と発想を転換させ、個々のビジネス・ユニットの経営を幹部社員に任せることで、経営者を育てる土壌づくりを行っている。そうした自身の考えを教えてくれる。『直球勝負の会社』の著者の出口治明氏は、経営者であり起業家。読み進むうちに、愚直なまでに自分の理想の実現に突き進む姿が浮き彫りになる。ITベンチャー経営者がもてはやされ、ロックスターのような経営者に憧れる若者は、出口氏の本を読んで、企業という仕事がいかに骨太の哲学とそれに裏打ちされた構えを必要とするかを学んでほしい。