仕事の専門分野でなくても、一流のビジネスマンになるために学んでおきたいことがある。
各界の第一人者たちが長く読み継がれる入門書を厳選してくれた。
同志社大学教授 太田 肇氏●1954年、兵庫県生まれ。三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を経て、2004年より現職。著書に『表彰制度』『社員が「よく辞める」会社は成長する!』など。

グローバル化やIT化で経営の現場が様変わりするなか、これまで以上に人事が重要になった。当然、見直しも必要なわけだが、その前提として日本と欧米の制度ではどこが違うのかを理解しておくべきだろう。

そこでまず、高度経済成長期の日本企業を支えてきた“日本的経営”を論じた『新・日本の経営』を勧めたい。アベグレンが、日本企業の強みとして指摘している終身雇用は、いまだに根強く残っている。その役割を知れば、欧米流のマネジメントと組み合わせて、新しい日本的経営を構築するための参考になろう。

一方、欧米の数多くのビジネススクールで教科書になっているのが『組織行動のマネジメント』。すでに日本でも、従来の上意下達のやり方では組織が立ちゆかなくなり、個人の創造性や変革力が要求されるようになっている。私はこれを「能力革命」と呼んでいるが、本書ではそれを踏まえたモチベーションやリーダーシップについて最新の組織行動学の視点から説明されている。

この2冊の内容を頭のなかに入れたうえで『はじめての人的資源マネジメント』を読めば“鬼に金棒”だ。人事労務管理に造詣の深い著者が、多様な人材の活用法をシステムからメンタルまで幅広く語り、企業の現場での実務・応用にも役立つ。

人事――日本的マネジメントの善と悪を問う

■米国MBAの教科書

『新版 組織行動のマネジメント』
  スティーブン・P・ロビンス/高木晴夫(訳)/ダイヤモンド社

本書は米国のビジネススクールで最も読まれている組織行動学の教科書。組織行動学では、心理学、社会学、人類学などさまざまな社会科学の知見を総合して、企業や団体といった組織で働く人々について体系的に研究していく。今、組織のなかの「人」の問題が最大の経営課題になっており、このアプローチが大変役に立つ。組織内のコミュニケーションを醸成し、モチベーションを高めていく優れたマネジャーが求められているが、人間の行動を理解し、チームや社内にイノベーションを起こすリーダーシップが必要なことがわかる。

■年功序列の効用を再検証

『新・日本の経営』
  ジェームス・C・アベグレン/山岡洋一(訳)/日本経済新聞出版社

バブル崩壊後の「失われた20年」を経て活力を取り戻しつつある日本企業。戦後、アメリカ戦略爆撃調査団の一員として来日した著者は、終身雇用、年功序列といった側面から、日本的経営の強みを論じた。それから半世紀を経た今、少子高齢化といった社会構造の変化に直面しながらも、事業の再設計を終えた日本企業を徹底的に再分析している一冊。

■人事システム全般を網羅

『はじめての人的資源マネジメント』
  佐野陽子/有斐閣

急激な経営環境の変化のなかで、人々の仕事観や働き方も多様になった。しかし、経営の目標に向かって、人材を効果的に活用する重要性は不変。全社員がより意欲的に仕事に取り組める社内体制が不可欠だ。そこで、日本的雇用の特徴から最近の人事制度、従業員の意識の変化に言及したうえで、これから求められる人事システム全般にわたって説く。

(岡村繁雄=構成 熊谷武二=撮影)
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