仕事の専門分野でなくても、一流のビジネスマンになるために学んでおきたいことがある。
各界の第一人者たちが長く読み継がれる入門書を厳選してくれた。
千房社長 中井政嗣氏●1945年、奈良県生まれ。73年、大阪・千日前にお好み焼き専門店「千房」を開店し、年商50億円超、60店舗以上のチェーンへ発展させた。「社会教育家」としても活躍。

小説から学ぶことは多い。「経営者は心理学を学べ」といわれるが、人の心理を見抜き、明るく前向きに働いてもらうのがリーダーの務め。それには「心理学」と名のつく本より、優れた小説を読むほうが身に染みる。

私は37歳のとき、社長業の傍ら通信制高校に入学した。中学を出てすぐに丁稚として社会に出たから、もう少し勉強する機会がほしかったのだ。国語の教科書に載っていたのが山本周五郎の短編「糸車」。感動のあまり、教科書を手に涙をこぼしていた。以来、周五郎ものは私のバイブルとなった。同作を含む『小説 日本婦道記』は、不遇をかこつ武家の当主らを陰ながら支える婦人たちに焦点を当てた作品集。『海賊とよばれた男』は、出光興産創業者をモデルにした骨太の長編小説だ。いずれも社会で経験を積んでからひもとくと、何気ない一節が心に響いてくるだろう。表面的なセリフや行為の陰に、相手を思いやる気持ちが控えていることに気づかされるからだ。

主人公らの姿はあまりに気高く、現実離れして見えるかもしれない。しかし読書の効用とは、自分を高め、家族や社会を少しでも明るく前向きにさせていくことだ。足らざるに気づき、半歩でも理想像に近づくことが大切なのだ。その意味で『国民の修身』も一読を勧めたい。