話題になっていたものの、難しそうで敬遠していた本の数々。斯界の第一線で活躍する権威たちが、それら一見して難解そうな書の読み方を手ほどきする。

社会制度や経済現象を検証する座標軸

富の形成、そしてその働きを理解する学問が経済学で、いろいろな社会制度や経済現象をチェックする際の座標軸を与える学問でもあります。今回もっと多くの方々に読んでいただきたい話題の書として『ものづくりからの復活』『経済学に何ができるか』の2冊を取り上げたのは、まさにいま私たちの目の前にある社会制度や経済現象を検証する際に、必要不可欠な具体的な事柄をいくつも教えてくれるからなのです。

藤本隆宏先生が『ものづくりからの復活』を上梓されたのは2012年7月。当時の為替レートは1ドル=78~79円台の円高・ドル安の水準で推移し、このときに何がいわれていたかというと、製造業がこぞって海外に逃げ出して日本の産業が一気に空洞化してしまうのではないかということでした。

しかし、藤本先生は特定の地域が衰退することと、産業や企業の構造転換や新陳代謝との違いを指摘されたうえで、現場の実力や為替レートなどさまざまな要因を見て判断することの重要性を説かれたのです。

そして、日本の製造業は国際競争力があり、私たちはもっと自信を持ったほうがよいと語っています。さらに藤本先生は、一番大切なのは付加価値と雇用を生み出す「ものづくりの現場」であることも本書のなかで強調されています。このことを経営者は自分の胸に刻み込むべきでしょう。

一方、猪木武徳先生は『経済学に何ができるか』のなかで、人間が完全な知識を持つ合理的な動物ではないからこそ、「制度」によって人間を縛っているのであり、人々の間や一人の人間の内部での価値の相克と分裂を意識しながら、経済社会の制度や慣行を学び直すことを提唱されています。皆さんが本書を読むことによって、ある結果をもたらす原因や要因は一つとは限らず、経済理論だけで言い募ったり、市場に過剰に期待することの危険性を知ることができるはずです。