これから農協制度が抜本的に変わる。2015年2月、政府・与党と全国農業協同組合中央会(JA全中)は、農協改革をめぐる協議で合意を果たした。全中の監査・指導権は廃止され、全中は2019年9月末までに一般社団法人に転換する予定だ。地域農協などから集めていた約300億円の「賦課金(上納金)」も、強制徴収はできなくなる。1954年以来、全中を頂点としてきた農協制度は約60年ぶりに見直される。
農協改革は「岩盤規制」の代表格だった。安倍晋三首相も施政方針演説で「農協改革を断行する」と成果を強調した。この改革案を取りまとめたのが、政府の「規制改革会議」で農業ワーキング・グループの座長を務めた金丸恭文氏だ。金丸氏はIT企業・フューチャーアーキテクトの創業者であり、現役の経営者。ITや経営の専門家が、なぜ農業の改革に取り組んだのか。そこには異分野ならではの着想があった――。
「聖域」分野の座長にいきなり指名された
【弘兼】金丸さんが農業改革に関わるようになったきっかけは何ですか。
【金丸】きっかけは政府の規制改革会議です。2012年12月に第2次安倍内閣が発足して、翌年1月に規制改革会議が3年ぶりに復活しました。私はその委員に任命されたのですが、具体的にどの分野を受け持つのかはわからなかったのです。
【弘兼】規制改革会議には金丸さんの得意分野である「創業・IT等ワーキング・グループ」もありますね。
【金丸】はい。私が力を発揮できるとすれば、この分野だろうなと勝手に考えていました。ところが電話があって「農業分野の座長をお願いしたい。議長も、大臣も、金丸さんに引き受けてほしいといっています」と。
【弘兼】それでは断れませんね(笑)。農業は新設された分野ですが、これまでは対象にすらならない、いわば「聖域」だった印象があります。どんな覚悟で引き受けたのですか。
【金丸】第2次安倍内閣が発足してから半年が経ち、「第3の矢」としての具体的な成長戦略が求められるタイミングで、農業ははじめて打ち出されたテーマでした。安倍首相も本気なのだと思いました。日本の将来を考えるうえでも、絶対に改革が必要なテーマであることは明確です。
ただし、農業は規制改革会議の中で、先輩方が何十年と取り組んでこられても、一歩も前進していない分野であると聞いていました。「農林族」と呼ばれる議員の力が強く、歴代の首相も手を出せないようなアンタッチャブルな領域でした。
【弘兼】どこから手をつけたんですか。
【金丸】規制改革会議の役割とは、法律をいまの時代に合った形に変えることです。その対象になる主要な法律は農業委員会法、農地法、そして農協法の3つです。この3つの法律を研究するところから始めました。