弘兼憲史の着眼点

▼なぜ「社業1割」で政府の仕事に関わるのか

対談を終えた後、金丸さんに「社業と財界活動の割合はどれぐらいですか」と訊ねたところ、「社業1割ですかね」という答えが返ってきました。

「ちょっと危険だなと思っています。本来、そんなに余裕はないんですよ」

農業分野への取り組みは、金丸さんの本業に直接プラスになるものではありません。それでも金丸さんが政府の仕事に注力するのは、日本の将来のためにという思いがあるからです。

「会社というのは、社長の器通りにしかならない。本業以外の情報を得たり、付き合いを広げることは、器を大きくすることになる。短期的に自分の会社の利益を考えて口を出すのは、見苦しいし、美しくない。結局のところ、人のために動くことが自分のところに返ってくるんじゃないですかね」

私は『会長島耕作』で、島の台詞として「社業30%、財界活動70%のスタンスでいこうと思っている」と描きました。これからは会長として、自分の企業のことだけではなく、日本全体について考えて行動していく。そう宣言させたわけです。

財界活動とは、企業の勝手な都合を主張するのではなく、日本経済への責務を踏まえた提言をすべきです。そのためには異分野への関わりも求められます。その点で金丸さんはリアルな「会長島耕作」の1人だといえます。

▼リーダーや経営者には「未来志向」が必要

優れたリーダーや経営者は、前向きな未来志向の持ち主です。金丸さんは規制改革会議に、やる気にあふれた若手の農業関係者を何人も呼んだそうです。彼らの話をすると、実に楽しそうな表情に変わっていました。

「国際的な二毛作に取り組もうとする農家もあるんです。日本で収穫を終えたら、今度はインドネシアで田植えをする。稲作の高い技術は海を越えます」

悲観するだけでは、物事は前に進みません。未来を向く人たちを、見つけ、つなげていく。金丸さんの得意分野が活きていると感じます。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
(田崎健太=構成 門間新弥=撮影)
【関連記事】
世界に負けない「日本の農業」改革私案
ロボットやICT技術が野菜を育てる「スマート農業」の時代へ
武士道はすなわち実業道なり
「栽培期間短縮」「収穫量2倍」なぜかおいしい野菜が育つ植物工場
TPPに触れない“経団連&農協”異例のタッグ