はじめに――
読者の皆様へ。
「いい歯医者と、悪い歯医者を見分ける方法がない!」、そんな嘆きをよく耳にする。どの治療が妥当で、値段はどれぐらいなのかは、個人によって違いがあり、いい歯医者を測る尺度がなかなか見当たらないためだ。他方、歯医者は構造不況に陥っている。平均年収は悪化の一途で、治療の現場でモラルハザードがいつ起きてもおかしくない。そこでプレジデント誌は、数々の歯科医師の悪徳について取材を進め、作家の架神恭介先生にお願いして、「悪い金持ち歯科医の父」から「善良で貧乏な歯科医師の息子」への手紙という体裁で取材内容を紹介していただくことにした。本稿を読めば、「治療引き延ばし、高額請求」の実態が怒りをもって理解できるだろう。
【悪徳歯医者からのアドバイス】

悪徳歯科医師であるタケシは、歯科医師の黄金時代にお金を儲けるだけ儲け、今では若い歯科医師を安くこき使い、自分は経営に専念している。他方、息子のヒロシは構造不況の歯科医業界で、父親の反対を押し切って独立開業した。ある日、タケシは久しぶりに息子ヒロシの歯科医院の前を通り過ぎて愕然とした。看板はボロボロ、患者は少ない、従業員には生気がない。息子のヒロシが心配になったタケシは、慌てて問題点を洗い出し、手紙でアドバイスをすることにした。

ヒロシへ。

おまえが歯科医院を開業して独立してから3年が経ちましたね。いつもブログを読んでいます。毎日、真面目に仕事をしているようでお父さんも安心しています。お母さんも、おまえは昔から真面目ないい子だったと口癖のように言います。

しかし、医院の運営はどうでしょうか? 患者は増えていますか? 収入は安定していますか? ヒロシももう一人前の大人だし、口うるさく言われるのは面倒だと思うけれど、お父さんには歯科医師として35年のキャリアがあります。わからないこと、困ったことがあれば何でも尋ねてくるように。お父さんもお母さんも、いつでもおまえの味方だよ。

――ヒロシは返事を出すことを躊躇していた。すると、またタケシから手紙が届いた。