――タケシのアドバイスを聞いて、半信半疑のヒロシだったが、歯科大学の同窓生に聞くと、歯科の現場ではモラルハザードが頻発しているようだ。ヒロシは自分の選んだ職業を恨んだ。しばらくしてタケシから、また手紙がきた。次にタケシから届いた手紙には、今、お金になる治療法のことが書かれていた。

ヒロシへ。

前に手紙を送ってから1カ月が経ちましたが、まだ反省していないようですね。お父さんも同業のみんなから責められて辛い思いをしています。

おまえも理解していると思うけれど、今は、われわれ歯科医にとって冬の時代です。なにせ≪【D】コンビニの1.3倍以上もの数の歯科診療所が存在している≫のですから。歯医者が多すぎるのです。患者獲得の過当競争の只中で、1日に5件の歯科診療所が廃止しているのですよ。お父さんが歯科医になった頃とは時代が違うのです。

昔はいい時代でした。全国的に慢性的な歯医者不足で、患者は常に歯医者を求めていました。朝4時から病院の前に長蛇の列をつくってまで診療を受けたがったほどです。内科や皮膚科よりも儲かったし、歯科医は左うちわの生活ができました。それが今やどうでしょう。歯科医の5人に1人は年収300万円以下という体たらくです。あんな≪【E】高額な歯科大学≫を卒業して300万円ですよ?

大金をかけて大学を卒業し、病院を建て、なのに経営が成り立たなくて廃業だなんて最悪の結末ではないですか。お父さんはおまえにそんな哀れな末路を辿ってほしくないのです。

とにかく、元凶は歯医者自身にあります。自分の息子が苦労せず入学できるように歯科大学をやたらに増やしたツケが今になって回ってきたのです。成績優秀だったおまえからすれば、バカどもに足を引っ張られて辛い思いをしていると思いますが、こんな時代だからこそ賢く振る舞わなければなりません。バカどもも医療費はきちんと誤魔化して水増し請求しています。賢いおまえがこの道理をわからないはずはありませんね? ヒロシ、おまえは賢い子だ。いいから、お父さんの言うことを聞きなさい。明日からきちんと水増し請求をするように。お父さんもお母さんも、いつもおまえのことを心配しているんですよ。

▼解説
【D】コンビニの1.3倍以上もの数の歯科診療所が存在している
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【D】歯医者も歯科医院も多すぎる!
【E】高額な歯科大学
歯科大学は学費だけで3000万円かかる。私大の中には6000万円かかるところもあったが、最近は歯科医は稼げないという認識が広がったため定員割れも起こり、学費値下げに走る大学もある。
 

※この話はフィクションである。多くの歯科医師は、患者のことを一心に考え、日々診療にあたっている。

 
作家 架神恭介
1980年生まれ。早稲田大学卒。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で小説家デビュー。『完全覇道マニュアル はじめてのマキャベリズム』『よいこの君主論』など著書多数。
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