――他人に自分の考えを説明するのが下手なんです。

お話が苦手そうには見えませんが?

――話をすること自体は下手ではないのかもしれません。でも、あまり相手に納得をしてもらえないんです。

たとえば、どんなときですか?

――お客さんを相手に商品の説明をするときとか、社内で何か提案しなくてはならないときとか……。

なるほど、それは「説明しなくてはならない」と感じているときですね。

では仮にあなたに大好きな異性がいて、そのご両親が付き合いに猛反対しているとしましょう。ご両親を説得できますか。

――もちろんですよ。できるかどうかというより、説得しなきゃダメですよね。

仕事と異性のことでは何が違うのでしょう?

――愛があるかないか、ですか……?

そうですね。それは、「十分に考え抜いたかどうか」「腑に落ちているかどうか」の違いでもあります。

あなたが両親を説得できるのは、相手について十分考えた結果、「付き合う」という結論が腑に落ちているからです。

仕事も、説明する内容について事前に、「やっぱりこうだ、これでいくしかない」と、その結論に自分が納得するまで考え抜くことが大事です。説明するのが上手な人は、事前の勉強や準備をきちんとして、まず自分を納得させています。あなたは十分考えましたか?

――少し足りなかったかもしれません……。

でもサラリーマンは、自分の本音はAでも、Bだと言わなくてはならないことがありますよね。たとえば会社の方針で、納得いかない商品を売らなくてはいけないとか。

会社の方針と自分の考えが違うのなら、どう違うのか、会社はなぜそのような方針なのか、自分の考えに穴はないのか、考え抜くことです。その結果納得がいかなかったら、まず、会社や上司を説得するよう行動するべきでしょう。

成績優秀な営業マンは、よく考えたうえで会社の販売方針にどうしても納得できない場合は、「お客様に説明できないから、売れません」と言いますよ。「自分は新商品に納得できないから、別の商品を売る」と。相手を説得するには、自分の“納得感”が必須です。

――なるほど。ところで出口さんにとって「説得上手」とは誰ですか?

古代ローマの英雄・カエサルですね。どんな人も彼と話すと、「カエサルは素晴らしい」「子分にしてほしい」と思ったそうです。女性にももて、クレオパトラもすぐ恋に落ちた。彼は「人間とはどんな動物か」を考え抜いたのでしょうね。

Answer:他人を説得する前に、自分を説得しましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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