ストーリー、伝えてますか

イギリス人のデービッド・アトキンソン氏は著書「新・観光立国論」の中で、日本の文化財について京都の二条城を取り上げてこう書いています。

この場(※筆者注:二条城のこと)を訪れる外国人観光客を見ていると、ほとんどは、何やらよくわからないという顔をしてとりあえず写真を撮って、「何か重要な場所なんだな」くらいの感想で素通りしていくのです。無理もありません。日本のみなさんならば、学校で「大政奉還」くらいは習うでしょうし、なんとなくこの場の重要性がわかります。しかし、海外からやってくる観光客からすれば、単に歴史のある木造建築にすぎません。(中略)つまり、ほとんどの外国人観光客は、何がすごいのか、細かいことはよくわからないまま世界遺産見学を終えるという、なんとも後味の悪い二条城観光をしているというわけです。

このことは日本のレストランの食事においてもまったく当てはまります。もしも、鰹節がこんな風に時間と手間をかけてつくられているということを知ったならば、1杯のお吸い物への見方は変わるでしょう。あるいは、日本の歴史の中で米がどのような意味を持ってきたのかを聞いたら、炊きたてのごはんの価値も変わるに違いありません。

つまり、単なる食材の説明だけなく、その後ろにある意義や文脈もあわせて伝えることによって、食の持つ輝きはもっと増すはずなのです。逆にそれがなければ、価値はなかなか理解されません。

一軒一軒の個人店にとって、そこまでやるのはなかなか高いハードルではあります。しかし、もっと「日本の食をわかりやすく語っていく」という動きが増えていくことが、この国の大切な観光資源をより効果的にアピールしていくことにそのまま繋がっていくでしょう。そして、ひょっとするとそこには新しいビジネスチャンスがあるのかもしれません。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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