強まり続ける「健康」志向だが……

食のトレンドを見ていくと、毎年のように「健康」をキーワードにした商品が注目を集めており、昨年はココナッツオイルや「プリン体と戦う」機能性ヨーグルトなどが人気となりました。当然、外食産業の世界でも健康を取り入れる動きは起きており、吉野家は野菜をふんだんにのせた「ベジ丼」を、モスバーガーも肉ではなく大豆を使った「ソイ野菜バーガー」を発売し、一定の話題を振りまきました。今年も健康をテーマにした新たな試みが始まることでしょう。

ただし、飲食店において「健康」をどう取り入れるべきかというのは、実は非常に難易度の高いお題です。というのも「有機野菜」や「マクロビオティック」などのメッセージを打ち出した飲食店の中で、繁盛しているところは決して多くはないのが現実なのです。むしろ近年人気を呼んでいるのはガツンと肉を食べられるお店だったりと、ある意味健康の逆を行っていたりするわけです(ちなみに外食における「肉と健康」についてはこちらの記事をご参照ください http://president.jp/articles/-/16614)。内食や中食ではなく、外食に対する期待においては、禁欲的な健康よりも楽しさや華やかさを求める傾向が強いのかもしれません。

そんな中、飲食店において「バーニャカウダ」というメニューを見かけることが、この数年急増しました。これはオリーブオイルやニンニク、アンチョビなどでつくったバーニャカウダソースと呼ばれるタレに、さまざまな野菜をつけて食べる料理です。バーニャカウダは「ザ・野菜料理」とでも呼べる一品ですが、この料理が店の名物になっているケースも珍しくありません。しかし、お客は野菜を第一に求めて来店しているかというと、どうもそうではなさそうです。

これらのお店は肉や魚も取り扱っていることがほとんどで、お客もそれらの料理とともにバーニャカウダを楽しんでいます。つまり、来店目的における主従関係で言えば、あくまで「魅力的なイタリアンレストランやワインバル」であることが主であり、先に来る話です。それに付随する形で「おいしい野菜料理(バーニャカウダ)」があるのです。この関係性を見誤って、肉や魚ではなく野菜を前面に押し出しすぎると、お客のニーズを無視した独りよがりの「野菜レストラン」が出来上がってしまうのです。