「ヘルシー」と「楽しさ」は共存可能か
ここまでは、健康は前面に出るのではなく、むしろ後ろに控えていた方が効果を発揮するという話をしてきましたが、最近では新しい形の関係性が見られるようになってきました。外食の事例ではありませんが、私の知人に久松達央さんという有機野菜の生産者がいます。この方は十分な技術と熱意をもって有機野菜の生産に取り組んでいますが、自らの生産物のキャッチフレーズとして「エロうま野菜」を掲げています。その意味するところは、有機野菜はとかく理性で味わいがちなところを、味覚をはじめ本能として「グッとくる」野菜をつくりたいということのようです。
また外食企業ゼットン経営者の稲本健一さんは、最近取り組んでいるテーマの1つとして「ヘルシーハイテンション」という言葉を挙げています。例えば、同社が運営するメキシコ料理を取り入れた店がありますが、ここでは野菜たっぷりのタコスをはじめヘルシーな料理がある一方で、それらをパンチの効いたスパイシーな味付けにしたり、あるいはコロナビールやテキーラを楽しんだり、さらにはノリの良い音楽を流したりしています。ヘルシーという静的な価値に対して、あえて「ハイテンション」をぶつけることで、新たな世界をつくろうとしているわけです。
もうひとつ事例を見てみましょう。鎌倉に「ポンポンケーキ」という、元々は移動販売だったものの、昨年店舗を構えたケーキショップがあります。こちらのコンセプトは「オーガニックでジャンキー」。
厳選した素材を使ってケーキづくりはするものの、アウトプットのスタイルは繊細さや品の良さを追求するのではなく、もっとざっくりとした普段づかいのケーキとなっているのです。主力商品がレモンチーズパイやキャロットケーキなどということで、何となくその「ジャンキーさ」が想像できるでしょうか。