――取引先を酒席に誘って懇意になり、仕事をスムーズに進めたいのですが、お酒が飲めないようなのです。

もしあなたが「とりあえず一緒にお酒を飲めば、本音が聞ける」「お酒なしには信頼関係は築けない」と考えているのだとしたら、それは違うと思います。本音を聞きたいなら、まず、9時から6時の業務時間中に、一所懸命仕事に取り組むべきです。真剣に相手と向き合って話をする中で、あなたが相手の意向をよく酌んで、どのようなことを聞かれても適切な受け答えをする。それができていたら、相手は少しずつあなたを信頼するようになり、本音で話してくれるようになるはずです。

――出口さんは、仕事で知り合った人と飲みにいくことはありませんか?

もちろんあります。ただ、あくまで、仕事を通じて得た信頼関係のプラスアルファだと考えています。相手もたまたまお酒が好きだったら、飲みにいったらもっと仲良くなれるかもしれない。でも、お酒がないと関係が築けないとは思っていません。

――職場でも、「飲みニケーションはやっぱり大事だ」とも言われますよね。

日本では、いわゆる飲みニケーション文化が根強いのですが、海外では、6時になったら仕事を終えて、あとは家族や恋人との時間を過ごす国が多い。日本だけがなぜ違うのか?

これは、戦後日本がつくり上げた経済体制が関係しています。野口悠紀雄氏の『1940年体制』という本に詳しいのですが、戦後、日本にはアメリカに追いつけ追い越せという具体的な目標があった。そしてその手段もわかっていたわけです。電力・鉄鋼の復興から始めて、最終的には自動車と電機、つまりGMとGEのような会社をつくればいいのだと。では、そうした目的を実現するにはどうするのが一番いいと思いますか?

――目標に向かってひたすら働く、ですか?

その通り。会社は従業員に長時間労働をさせる。仕事が終わった後も、飲みにいけば酒席で仕事の話ができる。家に帰るのが遅くなると、男は疲れます。だから女性は専業主婦になってもらい、家事はぜんぶ任せる、という性分業のシステムがつくられたのです。

――日本に来た外国人は、繁華街にある飲み屋の多さに驚くそうですね。

男同士で飲む場所を提供する飲み屋があり、そこには女性もいる。「6時を過ぎれば、家族か恋人と過ごす」社会ではこうしたシステムは成り立ちません。

飲みニケーション文化は1940年体制という社会の仕組みとセットなのです。この文化は今後、社会の変化や女性の社会進出に伴って変わるかもしれませんが、昼間に仕事をしっかりしている人なら、恐れることはないはずです。

Answer:お酒をアテにせず定時内の仕事に真剣に取り組みましょう

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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