日韓の「慰安婦問題」に中国が便乗する恐れも

日韓首脳会談は2012年5月以来、3年以上も行われていません。韓国は実施の前提条件として慰安婦問題の解決を求めていますが、日本はこの問題になんとかしてピリオドを打つ必要があります。首脳会談は2国間の懸案を解決する重要なもので、この間、日韓には解決すべき課題が溜まり続けています。さらにこの問題が長引くと、今後は中国が賠償責任を主張してくる可能性も大きい。日中戦争(1937年~)の場合、侵略戦争だったことは明確で、仮に軍人・軍属への賠償が蒸し返されれば、対象は遺族も含めて数百万人規模になりかねません。歴史認識問題が他国に波及するまえに、最前線である韓国との懸案を解決すべきです。

では、日韓の歴史認識問題はどうすれば解決に向かうのか。日韓基本条約の付属協定では、解釈に関する紛争は仲裁委員会をつくって解決を図ると定められていますが、私は両国政府が資金を出して拘束力を持たない「セカンドトラック」の協議機関を設けるべきだと思っています。現在、両国における日韓基本条約に関する理解は、行政府のみならず、司法府レベルでも乖離しています。まずはそれぞれの解釈が
「国際的に妥当なのか」を冷静に議論する場をつくるべきです。

実際に、日韓のセカンドトラックが有効に機能した事例があります。1995年、村山富市首相が「(明治政府による)韓国併合は合法」と発言し、日韓関係が悪化したことがありました。その後「韓国併合は違法」を公式見解としていた韓国政府は、その主張を国際的に認めさせようと3回にわたって国際シンポジウムを開いたのです。ところが世界中の法学者のほとんどが「植民地支配に条約は必要ない」という意見を述べ、韓国側の目論見は外れました。以来、韓国政府は韓国併合の違法性をことさらに取り上げないようになりました。その主張は国際的に不利だと認識したからでしょう。

歴史認識と異なり、法律的な議論であれば専門家の客観的な判断が期待できます。「言うだけ損」という事実が明確になれば、トラブルの種は減っていきます。

韓国や中国にフラストレーションをぶつけても、問題は複雑化するばかりです。「プライド」や「威信」のために歴史認識の問題ばかり議論することが、はたして本当に国益にプラスなのかどうか。戦争や災害において世論の関心は、直近のものに向かいます。極端に言えば、「第三次世界大戦」のような次の大きな戦争が起こるまで日本とドイツは責められるのかもしれません。だからこそ日本はドイツのように、関係国との関係を上手くコントロールし、議論をトーンダウンさせていくことが重要だと思います。

神戸大学大学院 国際協力研究科 教授 木村 幹(きむら・かん)
1966年、大阪府生まれ。92年京都大学大学院法学研究科修士課程修了。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。著書に『日韓歴史認識問題とは何か』(ミネルヴァ書房)など。
 
(呉 承鎬=構成)
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