海外からの日本衰退論に対して、「日本の『死亡宣告』は明らかな誤診である」と著作『日本――喪失と再起の物語』の中で反論するピリング氏。村上春樹から安倍晋三、小泉純一郎まで様々なトップランナーに取材してきた彼が見るこれからの日本とは……。
「フィナンシャル・タイムズ」紙アジア編集長
デイヴィッド・ピリング氏

名刺交換をすると、かなりの上背を折り畳んで、丁寧な“お辞儀”をされた。手渡した名刺を目の高さに押しいただく所作も日本人以上に日本人らしい。2001年冬に来日すると、特派員の仕事を始める前の1カ月間、古都・金沢の日本人家庭に寝起きし、日本語を勉強したという。ああ、この人だったら、大抵の日本人から本音のコメントを引き出せそうだと直感した。

デイヴィッド・ピリングは上下にわたる大冊『日本――喪失と再起の物語』の著者であり、イギリスで発行される大手経済紙、フィナンシャル・タイムズのアジア編集長でもある。同書はまずは欧米で出版されると大きな反響を呼び、この10月に日本語版が刊行された。

原題“Bending Adversity”は日本のことわざ「災いを転じて福となす」からきている。その名の通り、同書は徳川幕府の成立と鎖国政策から始まり、黒船による開国、先の敗戦、そしてバブル崩壊、東日本大震災という変化や災厄を日本がいかに乗り越えてきたかを描き出す。といっても、学者の手による、砂を噛むような内容ではなく、被災地住民から政治家、経済人、小説家、学者、ごく普通の一般人まで、取材対象自らに語らせる手法を用い、硬いテーマながら、読み手を引き込み離さない。