あれは侵略戦争だったのかそれとも……

全体として、日本に好意的な叙述が多い同書であるが、一方で耳の痛い記述もある。特に手厳しいのが日露戦争後の日本に対する見方だ。<日本は「神国」であるという信仰に支えられた天皇制イデオロギー><疑似ファシズム的天皇制カルトの呪縛>といった言葉を示せば、雰囲気はわかるだろう。日本が日清、日露戦争を勝ち抜き、朝鮮を併合したことで、自分たちは天命に導かれているという錯覚と驕りを与えられ、<アジア全域で残忍な軍事作戦を展開する>きっかけをつくった。ここは日本人のわれわれにとっては意見の分かれるところだ。

納得できなかったのは、ドイツ人のユダヤ人虐殺に対する罪と、日本人がアジア人に強いた苦痛を同一視する記述である。旧西ドイツのブラント首相(当時)がポーランドを訪問した際、ある記念碑の前にひざまずき、ユダヤ人犠牲者に対する謝罪の意を表したのに、日本のリーダーはこれまで、そうした「ひざまずき」に匹敵する意思表示を行ったことがない、とピリングは書く。が、ユダヤ人の根絶やしを公然と唱え、強制収容所までつくったナチスと、アジア人に対してそんなことはやっていない日本軍とを同一視できるだろうか。できないだろう。ただ、そうやって反駁するだけではなく、海外(英語圏)からは日本の過去はそのようにも見られているのだ、という認識は持ったほうがよさそうだ。

ただ、ピリングが誠実なのは、自分とまるで正反対の考えを持つ人まで取材し、その顛末を記していることだ。その人とは東條由布子。日本が真珠湾攻撃を行い、アメリカに戦争を仕掛けたときの総理大臣であり、戦後、A級戦犯として処刑された東條英機の孫娘である。

祖父の名誉を重んじ、東京裁判の無効を訴える彼女とピリングの会話はまったくかみ合わない。東條の一連の軍事行動は愚かであり野蛮であった、とピリングが主張すれば、彼らのおかげで後世のわれわれは平和と豊かな生活を獲得できたのだから、彼らの死は決して無駄死にではない、と由布子が反論する。とうとう「どんな動機で私をインタビューしているのですか」と、由布子は気分を害してしまう。

が、しばらくしてピリングが友好的雰囲気を取り戻すことに成功すると、彼女はバッグから祖父の形見の品々をいくつか取り出した。そのうちの一つ、茶色の小箱の上にはこういう言葉が記されていた。

<今、世界には冷たい風が吹き荒れているが、意気消沈してはならない。日本をおおっている暗雲はやがて晴れ、中秋の名月が拝める日は必ず再来するであろう>

絞首台に消えた東條英機が罪を犯したのは事実であったとしても、この言葉に嘘はないはずだし、「名月が拝める日」は現にやってきた。日本が世界有数の経済大国になるとは、東條英機は予想もしなかっただろう。