「まず経済成長を実現させることに注力し、財政再建はその後に取り組むべきでしょう。経済成長を実現させるには、人々にお金を使ってもらうことです。それなのに、増税という名目で、人々の財布からお金を引き抜くのは、愚かなことです。そういう意味では、安倍首相が消費税を10%に引き上げる時期を延期したのは賢明な選択でした」

(上)震災直後の釜石。(下)、陸前高田のキャピタルホテルにて。ピリングは、震災直後から、被 災地を何度も訪れ取材を重ねてきた(瀬ノ上俊毅=写真提供)。

この本は、東日本大震災によって引き起こされた津波が陸前高田市を襲い、7万本の松林を台無しにした中で、奇跡的に一本だけが助かった、という話から始まる。いや、単なる話の紹介に留まらず、ピリングが同地を訪れ、関係者に詳しく取材している。そして、本の最後に再びその一本松が登場、やむなく枯死してしまったその松をドライフラワーのような形で保存するようになったという話で全体が終わる。ピリングはそこに喪失と再起のシンボルを見るのだ。

<今の日本にとってこれほどふさわしいシンボルはあるだろうか>

ここでいう喪失は先ほどの「変化」に、再起は「適応」とも言い換えられるはずだ。

歴史家アーノルド・J・トインビーいわく、人類の文明はその都度襲いかかる難題という「挑戦(challenge)」を受け、それを克服する「応戦(response)」によって成長してきた。「変化」という挑戦を受けても、「適応」という応戦を繰り出せる限り、日本の未来は大丈夫だ。ピリングはそう語りかけている。

(文中敬称略)

「フィナンシャル・タイムズ」紙アジア編集長 デイヴィッド・ピリング
2002年1月から08年8月まで同紙の東京支局長を務める。現在は、香港を拠点に、中国、インド、東南アジアなどアジア各地を取材し、企業活動、投資、政治・経済などに関する時評や記事を執筆。著書に『日本──喪失と再起の物語』(早川書房)。
(菅原ヒロシ=撮影)
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