【貞鏡さんの答え】

やむをえない事情で「長年の取引先」との契約をあらためることになった。そんなとき、どう振る舞えばいいのでしょうか。講談で人気の演目『黒田武士』に、ヒントがあるかもしれません。

いまから400年ほど前。筑前国、現在の福岡県の城主・黒田長政の家臣に、母里太兵衛(もりたへえ)という武将がいました。ある日、太兵衛は勇将・福島正則のもとに使いを命じられます。正則は太兵衛をねぎらい、酒を勧めますが、太兵衛は主君の長政から「決して酒は飲むな」と忠告されていたため、これを固辞します。しかし酒豪の正則は「飲み干せたなら好きな褒美をやる」と執拗に酒を勧め、さらには「黒田武士は酒も飲めない、腰抜けか」と挑発。ついに太兵衛は、大盃で酒を3杯飲み干し、正則が豊臣秀吉から賜った名槍「日本号」を所望。後に引けなくなった正則は、家宝の槍を手放さざるをえませんでした。この逸話から次の民謡『黒田節』が生まれたといわれています。

「酒は飲め飲め、飲むならば、日(ひ)の本一(もといち)のこの槍を、飲み取るほどに飲むならば、これぞまことの黒田武士」

結果として太兵衛は、主君との約束を破ったわけですが、約束にこだわり続けていれば、黒田家の面子は潰れ、正則の怒りも収まらなかったかもしれません。ぎりぎりまで交渉を重ね、「ここぞ」というタイミングで動いたことで、大きな成果を手にしたわけです。

「長年の取引先」との契約をあらためるにしても状況や時機の見極めが大切なことはいうまでもありません。

(山川 徹=構成)
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