安全で効率的な現場を考えたとき、最終的にコマツが向かおうとするのは土木工事現場の無人化だろう。現場でいくつもの無人のICT建機が規則正しく動き、その様子を人間が室内のモニターを見ながら監視する――。そのとき、土木建設業界のイメージは確かに様変わりしているかもしれない。

そして、現場という最前線でスマートコンストラクションを活用し、その「変化」を実際に起こすのは、冒頭に紹介したアトスのような会社だろう。

社長の渡邊は言った。

「秋にはドローンを使って高精度測量をする予定です。現場の効率化が確認できれば、来期にはオペレーターを一気に増やそうと思っているんです」

36歳の渡邊は11年前、アトスの親会社・高橋芝園土木に就職したとき、土木業界の疲弊した雰囲気に寂しさを覚えた、と振り返る。

「給料も安いし、もう辞めようかという話ばかり。そんな場所に若い子が入ってきても、モチベーションが上がらないのは当然でした」

建設業は本来もっと魅力的なものであるはずだという思いが彼にはあった。

「だって、何もない場所に行って、自分たちの力で何かを作り上げる仕事です。それが魅力的でないわけがない。何かきっかけさえあれば、変わることができるんじゃないか。ずっとそう感じながら働いてきたんです」

その中で出会ったのがICT建機だった。親会社の了承を得て新会社のアトスを設立し、ICT建機やスマートコンストラクションを導入したのは、それが土木業界の姿を一変させる力を秘めていると感じたからだ。いまは8名ほどの会社だが、「2、3年で全国規模の会社にしたい」と彼は語った。

「次の採用は、ICT建機に乗る若いオペレーターと熟練オペレーターを分けて行うつもりです。そこから新しい土木の現場を担う人材を育てていきたい。いずれは女性のオペレーターも積極的に登用して、これまでになかったような土木のチームを作る。ICT建機があればそれができる。もちろん、海外でもやってみたいですね」

コマツは大橋の号令のもと、スマートコンストラクションという種をまいた。渡邊のような若い世代の経営者が前向きに語る夢は、その種が早速芽吹き始めていることを予感させた。

(文中敬称略)

コマツ 社長兼CEO 大橋徹二
1954年、千葉県生まれ。77年東京大学工学部卒業、コマツ入社。82年スタンフォード大学大学院工学部計数工学科留学。2004年コマツアメリカ社長、07年コマツ執行役員生産本部長、08年常務、12年専務。13年より現職。
(小倉和徳=撮影)
【関連記事】
1兆円 -「アベノミクスの鍵」世界一のロボット産業
これから5年、日米に好景気がやってくる【1】 -対談:コマツ相談役 坂根正弘×田原総一朗
ITを活用した「整流」生産活動
復興需要、五輪景気で復活を期す機械各社
日本の特徴を生かすICTの活用を【1】